組織防衛に汲々とする大新聞社 「王国」を飛び出した記者の告発
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
規模が違うと笑われそうだが、こんなところにいられるかと落語協会という組織を飛び出しての我ら立川流である。組織防衛に汲々とする大新聞。社員を守らない大新聞。経緯があまりに似ていて、大いに肩入れして読んだ。
東京電力福島第一原発の吉田昌郎所長は2013年に亡くなるが、政府事故調に答えた公文書が残されている。しかし政府は極秘扱いし公表しないのだが、朝日新聞がこれを入手する。
「吉田調書」は大スクープとなり、社長は新聞協会賞ものだと喜ぶが、風向きが変わり、結果朝日新聞はこれを誤報として幕引きを図る。矢面に立たされたのが特別報道部を率いる著者。さあどうなるのかとハラハラドキドキで、この推移が本書の白眉と言えるでしょう。
折しも各新聞社は発行部数を落としています。SNSの台頭で、個人がすでに情報の受け手でなく発信者となっているのです。紙のマスコミの焦りが見え隠れします。特に大新聞社の。
著者は謹慎蟄居中、食事に出た先で、妻にこう言われます。
「あなたはね、会社という閉ざされた世界で『王国』を築いていたの。誰もあなたに文句を言わなかったけど、内心は面白くなかったの。あなたはそれに気づかずに威張っていた。あなたがこれから問われる罪、それは『傲慢罪』よ!」
痛い。これ、自分が言われたように思ったマスコミ関係者は多いのではないでしょうか。末端にいる私ですら刃を向けられたような気がして、一瞬ペシャンコになりましたから。
そんな経緯で晴れて朝日新聞を辞めた著者は、50歳の現在、ウェブメディア「SAMEJIMA TIMES」で健筆をふるっています。たった一人で苦労の末に立ち上げたものです。私も数多い読者の一人で、この書評は無料への感謝と激励の意味があります。