実家という名の禍を抱え込む前に読むべき福音書

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実家じまい終わらせました!大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方

『実家じまい終わらせました!大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方』

著者
松本 明子 [著]
出版社
祥伝社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784396617868
発売日
2022/06/01
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

実家という名の禍を抱え込む前に読むべき福音書

[レビュアー] 今井舞(コラムニスト)

 田舎の実家の始末を先送りにしたせいで、1800万円もの大金が無駄に。著者が体験した大失敗をもとに、「実家じまい」における大切なことをまとめた本書。

 著者が子供の頃、香川県高松市に父が建てた実家は、宮大工に依頼し、釘を使わず建てた「木組み」造りのこだわりの家。だが、芸能界デビューした著者が東京に呼び寄せ、両親は故郷を離れることに。いつか帰るつもりで、ずっと実家は維持したまま。父が亡くなる際に遺した「実家を頼む」の一言に縛られ、その数年後母が亡くなっても、家をどうにかする気になれず。しかし住んでなくとも、電気、水道、固定資産税に火災保険、庭木の手入れ等、維持費は年に40万円近く。その後も、手放せないまま重ねたリフォームに約600万円かかり、往復交通費も含め、費やした金額1800万円也。不毛に気付き売却を決意したものの、売れた時の値段は、土地も含めてたったの600万円!

「実家じまい」の沼の深さ冷たさ恐ろしさが伝わってくる実体験ルポが前半に。後半は「ではどうすればよかったのか」を、「空き家の処分」「大量の家財整理」「墓じまい」の重要項目3つに焦点を当て、それぞれ専門家に教えてもらうという構成。

 結論から言うと、これが大変わかりやすい。前半の「実家あるある」はテンポよく共感しやすいし、後半のレクチャー部分は、著者と専門家の会話形式になっており、一般的なハウツー本より、初心者が飲み込みやすいつくりになっている。タレント本ではなく、ジャンルとしては完全に実用書。

「実家の空き家対策は、親が元気なうちに。相続が発生してからでは遅すぎます」という専門家の言葉を裏付ける衝撃の事実の数々。思った値で売れない、貸すにも費用がかかる、家を建て直せない土地がある、墓を畳むのに必要なお金のリアル、大量の荷物の整理のイロハ、良質な遺品整理業者の見極め方……。実家じまいを禍事にしないためのコツやポイントが、順を追い丁寧に提示される。

 日本人の多くが今後直面するであろう、実家問題の羅針盤として、一読をおすすめしたい。

新潮社 週刊新潮
2022年7月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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