「時の要請」に応えた在韓40年ジャーナリストによる実用的な韓国語論―― 黒田 勝弘『韓国語楽習法 』レビュー【評者:小針進】

レビュー

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韓国語楽習法 私のハングル修行40年

『韓国語楽習法 私のハングル修行40年』

著者
黒田 勝弘 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
語学/各国語
ISBN
9784040824314
発売日
2022/04/08
価格
990円(税込)

書籍情報:openBD

「時の要請」に応えた在韓40年ジャーナリストによる実用的な韓国語論―― 黒田 勝弘『韓国語楽習法 』レビュー【評者:小針進】

[レビュアー] 小針進(静岡県立大学教授)

■在韓40年の記者が指南! 日本人にとっていちばんやさしい外国語
黒田 勝弘著『韓国語楽習法』書評

■黒田 勝弘著『韓国語楽習法』

「時の要請」に応えた在韓40年ジャーナリストによる実用的な韓国語論―― 黒...
「時の要請」に応えた在韓40年ジャーナリストによる実用的な韓国語論―― 黒…

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■「時の要請」に応えた在韓40年ジャーナリストによる実用的な韓国語論―― 黒田 勝弘『韓国語楽習法』レビュー

■【評者:小針進(静岡県立大学教授)】

■大学の教室では教えない「楽習法」

 ①韓国語 、②中国語 、③スペイン語……評者が勤務している大学(国際関係学部)で、今年度の新入生が履修登録した第2外国語科目(7言語)で人数が多い順番だ。マイナー扱いで敬遠されていた時期もあった韓国語が最多になったのは、1987年の開学以来、初めてだ。同じような傾向は他大学でもあるらしい。メディアが決まり文句のように「史上最悪の日韓関係」と報じる風潮のなかで、面白い現象である。
 本書をまとめた背景には「時の要請」があると、著者・黒田勝弘さんは本書の「はしがき」で書く。韓国との間で政治・外交などの葛藤が続いている一方で、〈韓ドラ・Kポップなど文化的趣向から韓国への関心が高まっている。そこに新たな韓国語ブームが加わった〉という「時」の到来だ。大学での韓国語人気も、「文化的趣向」を背景にしたものである。男性音楽グループBTS(防弾少年団)などの影響で、高校時代から韓国語を独学してきた学生も少なくない。第2外国語の教室は、これまでは初学者ばかりが常だった。いまや、ネットで仕入れた最新の言葉の知識を背景に、教える教師もタジタジになるような質問をする学生も現れた。そんな「時」なのである。
 それでは、本書は「時の要請」に応えているのか。〈語学専門家ではないため、おそらく独断、偏見、勘違い、誤解……が結構あると思う〉とも独白する。たしかに、〈韓国語は関西人のように「アホやなあ!」ではなく、上州弁の「バッキャロ!」の感覚で学ばないといけない〉という記述などは、暴言(?)かもしれない。それでも、強い息を伴う「激音」と呼ばれる韓国語特有の発音を説明するには、「上州弁」とは言い得て妙だ。
 書名にもなっている「楽習法」の数々が、こんな事例でちりばめられている。「楽習」とは、ラクして学べるではなく、楽しく学べるの意味なのだろう。発音が紛らわしい「シンチョン(新村)」と「シチョン(市庁)」を区別する際、前者は「シン」でいちど区切ってn音をはっきりさせること、後者は「シー」と伸ばして発音することが大切だと、韓国人から教わった話などが載っている。大学の教室では教えない「楽習法」だが、実用性は高い。

■「異同感」が織りなす韓国語と日本語をめぐる比較文化論

 韓国語の初学者にはとっつきやすく、上級者もハッとする言葉をめぐる話も多い。一人称や二人称の使い分け、敬語とぞんざいな言葉の決まり事、「頭にくる」に相当する「ミッチダ」(動詞)が派生して感動や快感にも使えるなどの単語のあれこれ、新造語「ネロナムブル」(「自分がやればロマンス、他人がやれば不倫」の略語:ダブルスタンダードの意味)……。
 さらに、著者が気になった言葉を集めた第十章「私の韓国語小辞典」は、名著『私の朝鮮語小事典』(長璋吉著、北洋社、1973年)のオマージュでもあり、興味深い。そこで紹介されている「アサリパン」(乱雑なこと)という時事用語の背景を、評者も初めて知った。
 著者は、自身の記事や本書を含めた著書で「異同感」という造語をよく使う。同じだと思ったら異なる、異なると思ったら同じ面があるという意味だ。その「異同感」が織りなす韓国語と日本語をめぐる比較文化論と言ってもよい一冊だ。
 外来語、漢字語、同音異義語、類似語、四字熟語、ローマ字表記、政治家の言葉、罵詈雑言、下ネタ(?)などに関して、具体的な話が満載で、読者はそこから「異同感」を楽しめるはずだ。たとえば、日韓両語で使われる「八方美人」は、日本の「誰にでもいい顔をする」の意味ではなく、韓国では「誰にでも好かれる」という意味である。韓国語をまったく知らない人、これからも勉強するつもりがない人が一読しても、新しい視座が得られるはずだ。「アイゴー」という言葉の使い方などを、著者は初歩学習者、独学者へおススメし、さらには韓国語を知らない一時旅行者へも指南している。
 ところで、著者が韓国語を学習し始めた70年代は、ある種の「決意」を求められる時代だったことに触れている。〈「日本帝国主義が朝鮮から奪った言葉を今、日本人が学ぶということはどういう意味なのか?」などと、何やら決意が必要であるような〉、当時の風潮のことだ。ソウル在住の著者が、今、一時帰国の度に、羽田空港の入国ゲートで韓国語のボードを持って韓流スターを出待ちする日本のファンを見ると、隔世の感があると言う。
 評者も韓国語を学ぶ学生で一杯になった教室を見ると、「時」の移り変わりを感じる。そんな「時の要請」にマッチした本書を、大学生たちへ紹介したいと思っている。

■【作品紹介】
『韓国語楽習法』

韓国語楽習法 私のハングル修行40年 著者 黒田 勝弘 定価: 990...
韓国語楽習法 私のハングル修行40年 著者 黒田 勝弘 定価: 990…

在韓40年の記者が指南! 日本人にとっていちばんやさしい外国語
語順は日本語のまま、文字はローマ字と似た仕組み…
韓国語は日本人にとって非常に学びやすい外国語だ。
1970年代に韓国に渡り、ハングルの面白さにはまったベテラン記者が
習得の極意を紹介。読めば韓国語が話したくなる!

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322110000963/

KADOKAWA カドブン
2022年06月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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