『アセンブリ (原題)Assembly 新たな民主主義の編成』アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート著(岩波書店)

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アセンブリ

『アセンブリ』

著者
アントニオ・ネグリ [著]/マイケル・ハート [著]/水嶋 一憲 [訳]/佐藤 嘉幸 [訳]/箱田 徹 [訳]/飯村 祥之 [訳]
出版社
岩波書店
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784000615181
発売日
2022/02/19
価格
4,950円(税込)

書籍情報:openBD

『アセンブリ (原題)Assembly 新たな民主主義の編成』アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート著(岩波書店)

[レビュアー] 小川さやか(文化人類学者・立命館大教授)

新自由主義に対抗する道筋

 マルチチュード(多種多様な主体)による民主化運動、反資本主義運動とそのダイナミックな秩序形成の胎動を探究してきたネグリとハート。だが、アラブの春しかり、オキュパイ運動しかり、指導者なき運動は持続的なものにはならなかった。彼らは本書で次の問いを提起する。

 半世紀以上にわたってアクティヴィストたちは、集権的かつ垂直的な組織形態が民主主義の発展と政治的生への全面参加にとって桎梏(しっこく)となることを正当に批判してきた。だが指導(リーダーシップ)への批判を持続的な政治組織や政治制度の拒否へと翻訳したり、盲目的に水平性を崇(あが)め、耐久性のある社会構造の必要性を無視したりするのは誤りである。我々はいかにしてヒエラルキーなき組織、中央集権化なき制度を創出できるかを考えるべきだ、と。

 著者らは指導を放逐するのではなく、指導者と追従者の役割を転倒させよと主張する。つまり、戦略を立て、意思決定と集合形成を担うのがマルチチュード、個別の状況で即興的な戦術を駆使するのが指導者というかたちに通常の役割を逆転させるのだ。そのためには、マルチチュードが知性を備え、自己組織化する力があることを認識する必要がある。

 例えば、現代のテック企業は大衆の知性をプラットフォーム上で捕獲し、人びとの認知活動を動員・搾取することで利益を上げている。アルゴリズムは大衆が日々インターネットを使用したりすることで育てている、一般的知性の産物だ。だがアルゴリズムが大衆の生きた労働を基礎とし、改良に開かれているとしたら、マルチチュードは自分たちで労働と知性と機械を編成し、意思決定と集合形成を行う力をもつ「起業家」ともいえる。

 こうしたマルチチュードの協働を、天然資源から社会的富まで多様な<共(コモン)>を採取し、私有財産に転換する新自由主義の動きに対抗する形で編成し、<共>を奪取して自分たちで管理・統治するのだ。<共>の政治的な起業家活動という運動の道筋を提示した本書は、マルチチュードの力を改めて信じさせてくれる。水嶋一憲他訳。

読売新聞
2022年7月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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