『「歴史の終わり」の後で (原題)After the End of History』フランシス・フクヤマ著 マチルデ・ファスティング編(中央公論新社)

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「歴史の終わり」の後で

『「歴史の終わり」の後で』

著者
フランシス・フクヤマ [著]/マチルデ・ファスティング [編集]/山田 文 [訳]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784120055355
発売日
2022/05/23
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

『「歴史の終わり」の後で (原題)After the End of History』フランシス・フクヤマ著 マチルデ・ファスティング編(中央公論新社)

[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

揺らぐ自由民主主義 再興

 国際主義を否定する米トランプ大統領の出現と、新型コロナへの中国による強権的対応の手際の良さに民主主義国は戸惑った。だが、ロシアによるウクライナ侵攻と中国の異常なロックダウン対応を見て、世界は権威主義体制の悪弊を再認識した。右往左往する今日の国際関係に欠如しているのは政治哲学である。

 1989年の冷戦終結後、自由民主主義の勝利を「歴史の終わり」と形容したフクヤマは時代の寵児(ちょうじ)となった。だが、冷戦後の湾岸戦争、ユーゴスラビア紛争、9・11、イラク戦争などの混乱を通じて「フクヤマの終わり」などと揶揄(やゆ)された。彼は自由民主主義こそが目指すべき「目的地」と考えたのであって、そこで歴史が止まったわけではなかった。

 しかし、いったん走り出した誤解が彼の評価にまとわりついた。彼はその後も書き続けたものの、世間の関心は薄れた。その間、イラク戦争と2008年の金融危機に幻滅したフクヤマは共和党から民主党に転向している。

 従来、右派と左派は経済のテーマであったが、近年ではアイデンティティの問題となり、右派のポピュリストが台頭する傾向にある。その原点には自らが他者から尊敬・承認されていないという怒りの感情がある。それに対して、お互いを信頼しあう社会は国家としてもうまく機能する。それはやはり選挙を前提にした自由民主主義においてのみ可能だと考えるフクヤマの主張にブレはない。

 彼によれば、他人を信頼する伝統をもつ日本社会では近代化とともに大企業が成立したが、家族以外を信頼しない中国では同族企業が多く、彼らを他者とともに働かせるには国家が強制させるしかない。フクヤマは中国の挑戦を今後の最大の課題と位置づける。

 本書はノルウェー人研究者によるインタビュー形式だが、フクヤマの思想的一貫性と変遷をたどる上で貴重な証言録である。揺らぎの見える自由民主主義思想に再度エネルギーを注入しようと思索するフクヤマは、今もなお世界の政治哲学を牽引(けんいん)する論客の一人である。山田文訳。

読売新聞
2022年7月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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