『危機の外交 岡本行夫自伝』岡本行夫著(新潮社)

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危機の外交 岡本行夫自伝

『危機の外交 岡本行夫自伝』

著者
岡本 行夫 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103545613
発売日
2022/04/15
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

『危機の外交 岡本行夫自伝』岡本行夫著(新潮社)

[レビュアー] 井上正也(政治学者・慶応大教授)

安保・歴史「内向き」警鐘

 新型コロナで急逝した岡本行夫氏が「ライフワーク」として執筆していたのが本書である。もともと英語版の日米関係史として書き始められたことから、単なる回想録を超えて、三つの面を併せ持った深みのある著作となっている。

 第一は自叙伝である。父母を中心とする家族史から筆を起こし、生い立ちから外務省に入省して、牛場信彦という希代の外交官に鍛えられ成長していく自身を描き出している。

 第二は日米同盟史である。外交官として安保体制運用の「現場」に関わり、退官後は首相補佐官として沖縄基地問題やイラク復興支援に取り組んだ。著者の証言は、冷戦後の日米関係を見るうえで第一級の記録にもなっている。

 そして、第三は日本外交論である。アメリカだけでなく、歴史認識をめぐる対立を抱えた中国や韓国との間でいかなる関係を構築すべきか。未完となった最終章では、日本人の安全保障哲学の不毛を説き、次世代の若者へのメッセージで擱筆(かくひつ)されている。

 本書全体を貫くのは、日本の安全保障に対する強い危機感である。平和を重んじるあまり、国際秩序を維持するための危険を分担しようとしない姿勢は、結局は安全保障の根幹たるアメリカとの関係を危うくする。氏が関わってきた活動の多くは、実のところ日本人の内向き思考をいかに改めるかに力が注がれてきたといってもよい。

 歴史認識問題に対する姿勢も、安全保障問題への意識と通底する。中国と西側諸国との間で「価値」をめぐる対立が激化するなかで、日本も過去の歴史に正面から向き合わなければ安定的なアジア外交を進められない。日本には米中のような普遍的価値を説く意識がなく、レトリックを並べるだけで、そのための体制作りを行う認識を欠いているという批判は、国際秩序が揺らぎを見せる今だからこそ重く受け止められるべきだろう。

読売新聞
2022年7月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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