ユニクロ柳井正がトヨタから学んだ、世界で成功するために必要な意識

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トヨタ物語

『トヨタ物語』

著者
野地 秩嘉 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784101362557
発売日
2021/11/27
価格
990円(税込)

書籍情報:openBD

僕はまだまだ甘かった。

[レビュアー] 柳井正(株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)

ノンフィクション作家・野地秩嘉さんの著書『トヨタ物語』が刊行。車の販売台数で世界トップに立ち、世界を席巻するトヨタ自動車の強さの秘密に迫った本作について、株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正さんが、自身の経営を省みながら、読みどころを語った。

柳井正・評「僕はまだまだ甘かった。」

 トヨタ自動車工業の副社長だった大野耐一さんが書かれた『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』を拝読したことがあります。熟読しましたが、何が書いてあるのか、トヨタ生産方式(TPS)とは何なのか、さっぱりわかりませんでした。今回『トヨタ物語』を拝読して納得。大野さんご自身が〈俺の本を読んでもわからないのは当たり前だ。中身がわからないように書いてある〉とおっしゃっているのですから。つまりTPSは本を読んだだけではわからないということです。

 本書もまたTPSを解説する本ではありません。ここに書かれているのはトヨタの本質です。この会社は本気です。自分たちの今の成功が明日の失敗になるとわかっている。だからこそ昨日と同じことをやっていてはいけないのだと肝に銘じています。徹底した認識と実行こそが企業の明日を作る。それがトヨタの本質です。

 厳しい人たちです。トヨタの創業者・豊田喜一郎さん、大野耐一さん、本当に厳しい。僕はまだまだ自分が甘いと気付きました。これからはもっと自分にも社員にも厳しく経営していきます。僕は頑張りが足りませんでした。

 本書を拝読して気付きましたが、経営と経営学は別物です。トヨタがやっていることは、経営。経営とは企業のありかたそのもので、そして彼らは常に変わろうとしている。経営は維持ではありません。変化であり、成長です。

 ユニクロも日々、どう変わっていくべきかを考えています。自分の企業だけではなく、社会までをも変えていくような商品、サービスを作る。それが心意気であり、使命です。トヨタがすごいのは、あれだけの大企業になってもまだその気持ちを持ち続けていることでしょう。

 生産でも販売でも、現場には文字にできない重要なことがいくつもあります。働く人間の意識、心構え、チームワーク。そういったものは文字にすることができないし、録画してもわからない。指導者が現場に行ってやって見せて、そして自分の言葉で伝えなければならない。大野さんはそうやってTPSを伝えたのでしょうね。

 ただしそれだけでは足りません。現場をよく見なければならないのです。本書は現場をよく見た上で書かれていると思います。しかし、よく見ている人は実は意外と少ない。

 僕は現場に行ったら働く人をよく見ます。表情、顔色、作業の中でやりにくいところはないかを見て、話をして、改善する。経営者がやるべきことは労働環境をよくして現場のストレスをなくすことだけ。そうしなければ良い製品はできません。

 本書にあった印象的なエピソードですが、トヨタのケンタッキー工場の従業員が、二〇〇九年から始まったリコール問題で、豊田章男社長が窮地に立っているのを看過できず、進んでワシントンまで公聴会を見に行きました。アメリカの従業員がここまでやるなんて、普通ありえません。結局、豊田喜一郎さんという創業者が立派なのです。「人間は仕事をする上では平等だ」という意識を現場に植え付けていたのでしょう。世界で成功するには現場の平等を忘れてはいけません。

 ユニクロも世界進出をしました。「グローバルワン 全員経営」と言っています。最初は地域の事情がわからずに売れない色の商品を作ったり、大きなサイズばかりを作ったりして売れ残してしまいました。しかし日本から派遣した店長たちがグローバル化とローカライズのバランスをうまくとって経営をし、結果を出すことができるようになってきました。今、中国、韓国ではユニクロがナンバーワンショップになりました。地元の店よりもユニクロのほうがはるかに多い。これをさらに進めていくつもりですし、そのために僕らもトヨタと同じように、現場の平等を強烈に意識しています。ですから中国と韓国だけではなくアメリカでも東南アジアでもヨーロッパでもナンバーワンになれるでしょう。

 本書では「ジャスト・イン・タイム」つまり無駄な在庫は持たないトヨタの経営について触れています。我々の業界は在庫で潰れます。僕は仕事を始めたころから在庫の存在が負担でしたし、嫌でした。売れないから在庫が残る。それでマークダウンして在庫を処分する。既に損です。在庫の処分ばかりしていたら今度は正規の価格の商品が売れなくなる。そうこうしているうちに、会社は立ちいかなくなる――。

 売れない商品を作ることは罪悪に等しい。価値のある商品を作る、それがテーマでした。今やっと会社の体質が強化され、データを蓄積し、情報の使いこなし方がわかってきました。在庫をなくすことは以前から考えていたけれど、やっと実現できるだけの能力が備わってきました。

 僕は「厳しい経営者」と呼ばれています。しかし豊田喜一郎さん、大野耐一さんに比べれば甘い。彼らが持っていた危機感を持たなくてはなりません。トヨタというベンチャー企業の本質は、経営者が危機感を持ち続けたことです。

 大競争時代ですが、ユニクロはトヨタに負けません。僕らは実業の人間ですから、実業で結果を出します。

新潮社 波
2021年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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