声優・榎木淳弥とアニメーション監督・伊藤秀樹が語る しゃばけアニメの制作秘話

対談・鼎談

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またあおう

『またあおう』

著者
畠中 恵 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101461748
発売日
2021/11/27
価格
649円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

榎木淳弥×伊藤秀樹・対談「しゃばけアニメについて、伊藤監督と主演の榎木氏が語る!」

[文] 新潮社


榎木淳弥×伊藤秀樹・対談

榎木淳弥×伊藤秀樹・対談「しゃばけアニメについて、伊藤監督と主演の榎木氏が語る!」

畠中恵の「しゃばけ」シリーズを原作としたスペシャルアニメが昨年7月に公開。累計900万部を超えるシリーズ作品の20周年を記念したアニメの制作に携わった声優の榎木淳弥さんとアニメーション監督の伊藤秀樹さん。わずか3分というショートアニメ作品の制作秘話を語り合った。

「若だんな」というキャラクター

伊藤 若だんなは複雑なキャラだから、演じるのは難しかったでしょう。

榎木 そうですね。最初のテイクではちょっと元気が良過ぎたのですが、監督のアドバイスで病弱な部分はより病弱に、対決場面ではより力強く、とメリハリが出るようにしました。

伊藤 一太郎はたおやかな印象を与えるけれど、芯にはものすごく熱く強いものがある。その相反する要素を表現しなければならないんですよね。

榎木 3分という短いアニメなので、普通は30分のアニメで表現するものをなるべく凝縮して伝えようと心がけました。

伊藤 とても陰影のある芝居をしていただき、榎木さんの「一太郎」になっていました。本当に良かったです。

榎木 ありがとうございます。監督は「しゃばけ」シリーズはもともとご存じだったのですか?

伊藤 自分でも意外ですが、実は全然知らなかったのです。20年も続く有名なシリーズなのに。

榎木 僕は同じ畠中恵先生原作の『つくもがみ貸します』のアニメ化でも主人公の清次を演じていたので、作品のことは知っていたのですが、読むのははじめてで。とても親しみやすいお話ですよね。

伊藤 そうですね。でも、アニメ化のお話をいただいてから絵コンテを描くまで時間の余裕がなかったので、楽しみつつも必死で読んでいました。

榎木 今回は第一作『しゃばけ』だけではなく、シリーズの様々な作品の名場面が入ったアニメになっていますよね。相当読み込まれましたか?

伊藤 原作を読みながら「これは映像化するのは楽しそうだ」と思いつつ、気になった場面にどんどん付箋をつけて構成案を考えていきましたが、取捨選択に悩みました。

榎木 監督が一番力を入れたシーンはどこでしたか?

伊藤 「おまけのこ」で鳴家が川の主の鯉に出会う場面ですね。あそこは一生懸命描きました。それと、『うそうそ』の弁財船の場面も描いていて本当に楽しかった。江戸時代の船の構造って面白いんですよ。実は昔、大工をやっていたこともあって、船大工になりたいなあ、と思いながら描いていました(笑)。

榎木 それは意外でした(笑)。どれもほんの一瞬の場面でしたよね。

伊藤 いまは無くなってしまった江戸の風景、というものに憧れがあるんですよね。本当はトキの群れなんかが飛んでいたんじゃないかな、などと想像しながら描くのは楽しかったです。

アニメーションと時代もの

榎木 アニメで時代劇って、実は珍しい。時代考証などは相当苦労されたのではないですか?

伊藤 歴史時代ものを手がけるときは、資料に当たるのが楽しくもあり大変でもあり。特に江戸時代は資料が山ほどあるので。だから時間との勝負で、どこかで踏ん切りをつけなくてはならないんです。『しゃばけ』では、以前『四谷怪談』のアニメをやったときの蓄積がものを言いましたが、はじめてだったら大変だったと思います。

榎木 なるほど。でもアニメには自由さもありますよね。『つくもがみ貸します』は江戸時代が舞台ですが、清次の髪型はざんぎり頭で、他にも現代風のアレンジが加えられていました。

伊藤 畠中先生も何かのインタビューでおっしゃっていたと思うのですが、きちんと時代考証をしつつ、どこまで現代的な要素を入れるか、というバランスが本当に難しい。というのも、本気で江戸時代を再現しようとすると、現代の読者には理解できない、違和感のある作品になってしまうんですよ。

榎木 そのバランスが、今回のアニメーションでは原作に忠実になっていると思いました。

伊藤 原作の柴田ゆうさんの装画は、柔らかく簡素に描かれていますが、裏にしっかりとした考証と意志があります。僕も当時の衣装や鳥山石燕の画など資料にいろいろ当たりましたが、柴田さんの絵がそうしたものを踏まえていたので、「結局これでいいのか」と(笑)。演じる側としては時代を意識されたことはありますか?

榎木 ダミ声で巻舌風に「てやんでぃ」とか、いわゆる「江戸時代っぽさ」は出さず、作り込まないようにしました。

伊藤 確かに自然な喋り方でしたね。

榎木 YouTubeで100年前の人々の会話音声が聴けるんですが、言葉遣いこそ昔風だけど、発声の仕方は変わらない。だから江戸時代の人もそうだろう、と。勝新太郎の『座頭市』を見たことも大きかったですね。変に作らない演技が印象的でした。

伊藤 なるほど。勉強されているんですね。狭き門をくぐりぬけただけあって、最近の声優さんは皆さん本当に上手です。

榎木 皆、勉強熱心ではありますね。僕も役者仲間数人で、メソッド演技論など芝居に関する本を読んで意見交換をしたり、学んだことをトレーニングとして実践したりしてます。役に立つ立たないはありますけど(笑)。

伊藤 人気と実力があるのに常に努力していて、素晴らしいですね。

榎木 競争社会ですから(笑)。

新潮社 波
2021年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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