『幻想店舗録 異世界に一番近い場所 Next level』
- 著者
- 幽玄一人旅団 清水大輔 [著]
- 出版社
- パイ インターナショナル
- ジャンル
- 芸術・生活/写真・工芸
- ISBN
- 9784756256249
- 発売日
- 2022/05/26
- 価格
- 2,035円(税込)
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個性的な店舗は絶滅危機! 過剰な店内装飾を題材にした写真集
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
正直、何も知らずにうっかりこういう店に迷い込んだら、ちょっと怖くなるかもしれない。この本は、日本にこんな場所があるのかと驚くような店舗を題材にした写真集だ。
すべて実在する店で、巻末に店舗情報がまとめられている。だから、訪ねてみることも可能である。
喫茶店やバーが多い。どの店にも共通するのは、これでもかというほど過剰な店内装飾だ。たとえばいちめんの陳列棚。そこにおさめられた動物や人間の骨格標本。人形。砂時計やスノードームなど、きらめくガラス類。そして、店内で繁殖しているかのように天井や壁をびっしり覆うドライフラワー。そう、この写真集が描写する「装飾の過剰さ」は、ひなびた観光地にある秘宝館や、個人が営々と築いた遊園地のような、ああした極彩色の花咲くキッチュさとは対照的なものだ。どちらかといえば暗く、色は少なく、モノは無口でひんやりとしている。その空間に立ち入った人間に、おまえもまもなく有限の肉体を脱ぎ捨て、長い長い時間と果てのない空間の住人になるのだと語りかけているように。
以前、「東京の山手線の内側では、個人経営の飲食店はすでに絶滅寸前で、今後に希望もない」という話を聞いたことがある。どこに行ってもチェーン店ばかりで、町から個性が消えて久しい。都心の近くにも再開発の進む町はいくつもあるが、きれいな駅ビルが建ったり、駅前の繁華街が装いを一新したりしたところで、そこには小ぢんまりとして親しみやすい、おなじみの店ばかりがずらりと並ぶのだ。それを非常に息苦しく感じるのはわたしひとりではないはずだと思う。
思いきり趣味に走った個性的な店が、どの町からもなくなりませんように。個人が好きなように経営する店舗が絶滅せず、次世代がその経営を継ぎたいと思える世の中でありますように。この願いがどこかに届く日はくるだろうか。