チャイナタウンが舞台の犯罪モノ 映画の「あの俳優」が美しすぎて…

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イヤー・オブ・ザ・ドラゴン

『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』

著者
ロバート・デイリー [著]/田中梓 [訳]
出版社
徳間書店
ISBN
9784195993897
発売日
1991/09/01
価格
579円(税込)

チャイナタウンが舞台の犯罪モノ 映画の「あの俳優」が美しすぎて…

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 ’80年『天国の門』は災害級の駄作と酷評され、映画史に残る大コケで映画会社が倒産。雌伏5年、マイケル・チミノ監督起死回生の作品はNYチャイナタウンが舞台の犯罪映画。チャイニーズマフィアの新たなボスとなった冷酷な男と犯罪の撲滅に執念を燃やす警部との対決を描いた。でもそこはチミノ監督、原作通りの刑事物にはしたくなかったんでしょうね。登場人物の名前を全て原作と変えるという暴挙に出た上(笑)、人種や家庭の問題、戦争のトラウマを加味。さらに、原作では最後までピンピンしている人たちが殺されるという悲劇まで用意した。

 原作のパワーズ警部は、警察学校の同期が出世しているのに自分は万年警部であることに劣等感と焦りがあり、昇進願望が半端ない。愛妻家で大学生の息子もいる。ブロンド美人の有名ニュースキャスターと愛人関係になるが、夫婦関係はラブラブのまま。映画ではスタンリー・ホワイト警部という名前で、セクシー俳優として当時人気絶頂のミッキー・ロークが演じた。ポーランド系だから出世できないとひねくれ、ベトナム戦争のトラウマもある。妻との間には子供がなく関係はうまくいっていない。愛人は売り出し中のTVリポーターで中国系。上司の顔色を窺いながら捜査する原作と違い、周囲を犠牲にして暴走する。一方、宿敵となるチャイニーズマフィア新世代のリーダー、ジョーイ・タイ役は息をのむほど美しいジョン・ローンが圧倒的な存在感で演じた。原作ではジミー・コイという名前で元香港警察の警察官。香港とNYにそれぞれ妻と子供がいるという設定だ。

 映画のクライマックスはスタンリーとジョーイの一対一の撃ち合い。負けたジョーイは自らの顎に銃口を当て名誉の死を選ぶ。原作では重婚罪で逮捕されそうになり、ショボすぎる罪状にプライドが傷つき自殺。両雄の対決なのに切り札が重婚罪じゃ緊迫感が台無し。

 チャイナタウンの裏社会の恐ろしさや猥雑さが色濃く描かれた映画のほうに軍配が上がるが、最大の見所はジョン・ローンの魅力。タイの奥地で麻薬王と相対するシーンの壮絶な美しさが目に焼き付いている。

新潮社 週刊新潮
2022年7月21日風待月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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