『生きもの毛事典』文・保谷彰彦、イラスト・川崎悟司(文一総合出版)
[レビュアー] 梅内美華子(歌人)
もふもふ、ちくちく。体の表面をおおう毛から微生物や細胞の繊毛まで、いろんな毛がある。本書は鳥獣虫魚、植物、ヒトが持つ毛を網羅し、その種類と役割を紹介する毛だらけの本である。
動物の毛は見た目も触り心地もヒトより剛毛に感じる。だが毛が太いものほど引っ張ったときの強度は低下し、ちぎれやすいのだという。イラストを見ながら動物たちが生息する環境を思い浮かべると納得がいく。
ゴキブリが住居に寄ってくるのも、さっと逃げるのも、においや気流を感じとる毛のセンサーによる。疎ましいアイツは、ヒトには備わっていない毛を持っているのだ。
本書を開くと思わず目が釘(くぎ)付けになるイラストが出迎え、ちょっと濃い目のユーモラスな絵が、生命を支えている毛の世界に誘導する。
今や男性もムダ毛処理をする時代。濃いとか薄いとか無駄だとかという意識を持つのは人間だけだ。しかし無駄な毛は一つもないのである。