交渉のプロがつかうBATNA思考は、なぜ「やっかいな相手」の切り札になるのか?

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BATNA

『BATNA』

著者
齋藤孝 [著]/射手矢好雄 [著]
出版社
プレジデント社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784833440417
発売日
2022/06/29
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

交渉のプロがつかうBATNA思考は、なぜ「やっかいな相手」の切り札になるのか?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

著者によれば、『BATNA 交渉のプロだけが知っている「奥の手」の作り方』(齋藤 孝、射手矢好雄 著、プレジデント社)は、交渉の場面をはじめ、ビジネス全般、さらには日常生活にまで幅広く活用できる<BATNA(バトナ)>の思考法についてまとめた書籍です。

さて、<BATNA>とはなんなのでしょうか?

それは交渉論の重要概念であり、Best Alternative To a Negotiated Agreementを略した、「代替案のなかで最良のもの」を意味する言葉です。

いわゆるプランBのような、ただの代替案ではありません。<BATNA>とは、目の前の相手と交渉が成立しないときに、「自分はなにができるだろう?」「なにをするのがベストなのだろう?」とつねに考え、あらかじめ懐に持っておくべき最善の策のことです。

つまり、<BATNA>とは、交渉を自らの意思で「打ち切ろう」と決めたときに繰り出す“奥の手”であり、“伝家の宝刀”とでもいうべき最強の武器なのです。(「はじめに <BATNA>思考で人生は豊かになる」より)

交渉というと、ビジネスや外交などにおいて一部の人たちだけが使う技術を思い浮かべがち。しかし<BATNA>思考は、誰もが日常的な場面で広く実践的に使える思考法なのだとか。

普段の生活のなかで行うちょっとした判断や選択、相手との対話、大切な決断なども広い意味では交渉であるといえるはず。したがって、この思考法を身につければ「人生が変わる」といっても過言ではないというのです。

こうした考え方をもとに、<BATNA>を人生全般に役立つ思考法として昇華させた本書のなかから、ビジネスの場面で遭遇しがちな「やっかいな相手」や「最悪の状況」を“最良”に変えていく方法を明かした第2章「<BATNA>があなたの仕事を“最良”にする」に注目してみましょう。

やっかいな相手は「武装解除」する

交渉の場においては、相手が妙に頑固だったり、「絶対に妥協しない」という雰囲気を出してくる場合があるものです。とても押しが強かったり、ちょっとずるい人だったりすることだってあるかもしれません。

では、そんなときにはどうしたらいいのでしょうか?

著者によれば、<利益>の分析をすることによって突破口が開けるのだそうです。自分に<利益>があるように、その“嫌な人”にも<利益>はあるはず。そこで、まずは相手が「なにを求めているのか」を探るべきだということです。

たしかに、態度だけをみれば“嫌な人”だったとしても、こちらが感情的にさえならなければ、相手が追求しているものを冷静に見極めることはできるはず。それさえ実現できたなら、あとは自分の<利益>とともに相手の<利益>も達成できる<オプション>を提示すればいいわけです。

たとえ“妥協しない雰囲気”を出していたとしても、“得たい<利益>を”提示されて譲らない人はほとんどいないはず。そのため、相手がどこまでの条件なら譲歩するのかを、<オプション>の提示によって探ることが重要な意味を持つということです。

また、場合によっては、交渉用語でいうところの「武装解除」を先に試みることもいいようです。武装解除とは、<コミュニケーション>を通じて相手の心を解きほぐす作業

どんなに“嫌な人”でも頑固な人でも、こちら側にとって嫌であったり頑固であったりするだけで、当然その人にも「好きなもの」はあります。

例えば、その人は落語が好きかもしれないし、囲碁が好きかもしれないし、お酒が好きなのかもしれません。そんな「好きなもの」を、まず会話という<コミュニケーション>から探り出していくのです。相手の「好きなもの」は<利益>のひとつでもあるので、そこから入っていき、相手の武装を解除していきましょう。(135ページより)

自分にとって嫌な相手だからこそ、むしろ自分の「嫌だ」という感情から離れる姿勢が大切になるということです。

感情的に難しかったとしても、相手には必ず突破口になりうる<利益>があるはず。そこにアクセスするために、まずは<コミュニケーション>で武装解除し、しかるべき交渉に持ち込んでいくべきだという考え方なのです。(134ページより)

相手の<BATNA>をつぶして優位に立て

こちらがなにをしても相手が譲らなかったり、不条理な行動をされたりしたら、そんなときには<BATNA>という奥の手を出すべき。「わかりました。そうであればあなたとは取引しません」と伝え、交渉を打ち切ることになるわけです。

ただしその前に、「<BATNA>つぶし」を試してみるのもいいそうです。<合意>しないということは、相手もまたこちらの<BATNA>を取ることになるため、このときに「もし取引をしないなら確実に損をしますよ」「この取引以外にたいした選択肢はないですよ」とちらつかせることが、効果を生むことがとても多いというのです。

「<BATNA>つぶし」は伝え方が難しい場合もありますが、要は、「こんないい話を断るのですか?」というニュアンスが相手に伝わればいいのだとシンプルに考えてみてください。

そのためには、やはり相手の<BATNA>を知っておくことが欠かせません。相手の<BATNA>は、相手の<利益>や<オプション>を客観的に分析するなかである程度推測できますが、それに加えて、<コミュニケーション>によってふだんから探っておくのも大切です。(136ページより)

とはいえ相手が自分の<BATNA>を具体的に明かさない場合もあるでしょう。そんなときは推測になりますが、立ち戻るべきは相手の<利益>の分析。そのうえで、相手が<BATNA>を取ることで、いかに大きな<利益>を逃してしまうかを伝えていけばいいということです。

また、どうしても相手の意図がわからなければ、「この取引をしなければものすごく損をしますよ」と、何度も繰り返し伝える方法も有効であるようです。なぜなら、人間には儲け話を逃すよりも、損をするほうを嫌がる心理があるから。

「損をする」といわれると相手も警戒し、こちらの話にある程度は耳を傾けてくれるようになるということです。したがって、相手の意図や<BATNA>が具体的に見えてこない場合には、そんな揺さぶりをかけていくのも交渉ではときに有効だと著者は記しています。(136ページより)

先の見えない時代においては、誰もが交渉する意識を持ち、感情に振り回されず合理的に考えながら生きていく姿勢が不可欠。だからこそ<BATNA>思考を身につけ、人生を豊かにしていきたいところです。

Source: プレジデント社

メディアジーン lifehacker
2022年7月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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