<書評>『エクアドール』滝沢志郎 著
[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)
◆異邦舞台の壮大ロマン
日本の戦国時代は、ヨーロッパの大航海時代と重なる。近年、この点に注目した歴史小説が増えてきた。滝沢志郎の新刊も、そのひとつといえるだろう。しかもストーリーが熱い。琉球から東南アジアを舞台にした波瀾万丈(はらんばんじょう)の物語なのである。
種子島に鉄砲が伝来する二年前。琉球は、海賊集団「倭寇(わこう)」の勢力拡大を憂いていた。倭寇といっても、今は多くが明国人だ。元倭寇で琉球王府の下級役人の眞五羅(まごら)は、倭寇から琉球を守るには仏朗機(フランキ)砲(西洋式の大砲)が必要だと、上司の王農大親(おうのううふや)に進言。これにより南蛮才府(貿易の責任者)となり、仏朗機砲入手の交渉のため、マラッカを目指すのだった。
旅の一行は、眞五羅や王農大親の他に、名門・与那城(よなぐすく)家の嫡男の樽金(たるがね)、かつて眞五羅の仲間だった倭寇の弥次郎、華人の通詞の梁元宝(りょうげんぽう)など、多彩な顔触れである。さらにアユタヤから、倭寇の頭目の王直や、ポルトガルの冒険商人のメンデスと、彼の通訳を務めるマフムードも加わる。立場も人種も違う彼らが、さまざまな騒動や戦いを経て、しだいに固い絆で結ばれていく。成長する者もいれば、自分の心を見つめ直す者もいる。そして、それぞれの道を歩み出すのだ。ここが本書の読みどころだろう。
もちろん、激しい戦いも注目すべきポイントだ。アユタヤで騒動に巻き込まれたメンデスたちを助けようとする、眞五羅たちの奮戦。マラッカに攻めてきた、アチェ王国の艦隊との激突。仲間を救出するための、命懸けの戦い。異邦の地で繰り広げられるアクションに興奮する。本書は、優れた歴史小説であると同時に、優れた冒険小説でもあるのだ。
さらに、史実や実在人物の扱いも巧みである。史実から逆算して創られたエピソードを織り交ぜ、興趣に富んだストーリーにする手腕に感心した。眞五羅が、マラッカの長官との交渉で使う切り札も、そのネタを持ってきたのかと驚いた。虚実を見事に融合させた、壮大なロマンを堪能できるのである。
(双葉社・1980円)
1977年生まれ。2017年、『明治乙女物語』で松本清張賞を受賞し小説家デビュー。
◆もう1冊
安部龍太郎著『海の十字架』(文春文庫)。戦国時代に大航海時代をリンクさせた作品集。