『女の子がいる場所は』
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国も宗教も文化も違う少女たちの理不尽な日常
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
たとえば宗教が異なれば、文化も社会通念も異なってくる。“わかる”とは簡単に言えなくなる。でも、そこで立ち止まったままでいいんだろうか――。
いま“考える”ことを諦めたくない人びとのあいだで大きな話題となっているのが、やまじえびねのコミックス『女の子がいる場所は』だ。6月10日の発売に合わせ、Twitter上で二話分を無料公開するや多くの反響を巻き起こし、すぐさま初版を超える刷り部数での重版が決定した。
本書は、宗教も慣習も様々な五つの国に住む十歳の女の子たちの「日常」をモチーフにしたオムニバス形式の物語だ。たとえばサウジアラビアで暮らすサルマは、外出時にはヴェールで髪を覆わなければならない年齢。かつてのように幼馴染の男の子と一緒にサッカーボールを追いかけることもできなくなってしまったことに寂しさを感じている。また、本が大好きなモロッコのハビーバは、祖母の友人である老女から「本は男の持ち物だ」と言われて絶句する。両親が離婚し、母と祖母の三人で暮らすことになった日本のまりえは、たびたび意見が食い違う母と祖母のやりとりに困惑する。彼女たちはみな前を向いて生きているが、その「日常」の中には性別に紐づけられた理不尽があらゆる形で紛れ込んでいる。
企画の提案から刊行まで、実に三年もの年月を要した労作だ。「とにかくひとつずつひとつずつ、丁寧に進めていきました。中でも作者のやまじさんが一番時間をかけてくださったのが“知る”という部分なんです」と担当編集者。
たとえばサウジアラビア編の場合、プロットを書くまでに三ケ月かかったという。どんな家に住み、どんな服を着て、どんなものを食べているのか。資料をみればそれらの情報は書いてあるし、現代では写真も豊富にある。けれどそこで生きる人の「日常」を立ち上げるという行為はまた別のことだ。知らない、だからこそ知りたい、という願いに、他者への想像力は宿る。
「たくさんの意見や感想がSNS上にあがっていることが、なによりも今という時代の希望になっていると思います」(同)