【ミステリファン必見】AI技術者による電脳法廷小説&話題沸騰の短篇集

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  • AI法廷のハッカー弁護士
  • #真相をお話しします
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[本の森 ホラー・ミステリ]『AI法廷のハッカー弁護士』竹田人造/『#真相をお話しします』結城真一郎/『入れ子細工の夜』阿津川辰海

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 AI技術者にして第八回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞者でもある竹田人造の受賞第一作が『AI法廷のハッカー弁護士』(早川書房)だ。裁判の省コスト化や高速化に向け、先行する海外に学び、AI裁判官が導入された日本を舞台に、機島雄弁なる弁護士が主人公として活躍する。第一話となるCase 1では、圧倒的に被告人が不利な証拠が揃った裁判において、機島がAI裁判の特徴を利用し――すなわちハッカー的センスを活かして――勝訴を目指す。法廷ミステリの魅力をテクノロジーで倍加させた一篇であり、これでまず著者が想像した世界の虜になる。第二話は、第一話のサイドストーリーに連なるかたちで機島法律事務所の変化を描きつつ、脳波義肢という新技術が絡む事件と、やはり機島らしい法廷闘争を綴る。第三話、第四話もそれぞれAI裁判の話が続くのだが、全四話の構成がクッキリ起承転結となっており、トータルで愉しめることも強調しておこう。その全体のなかで大きなドラマが脈動し、さらにこの物語ならではの驚愕も仕込まれた見事な連作ミステリとなっている点も嬉しい。登場人物たちも曲者揃いで、そこもまた愉しい。デビューがSFの賞という著者だが、ミステリファンも要注目。

 続いて、コロナの影響下にある日本を舞台とした短篇集を二つ。いずれも連作ではなく、独立した短篇で構成されている。

 まずは五篇を収録した結城真一郎『#真相をお話しします』(新潮社)から。第一話は、家庭教師を売り込むアルバイトの男子大学生が、ある家庭を訪問した際の経験を描く。いくつもの小さな不自然を読み解いた果てに現れる真相に驚愕する。その他、娘のパパ活を憂いつつ自分もマッチングアプリに手を出す男や、リモート飲み会で友人の殺意を聞かされた男を描きつつ、周到な仕掛けで、著者は読者をもてなす。そんな短篇集の掉尾を飾る「#拡散希望」は、離島に引っ越した小学生の視点から、島の子供との交流やその後の変化などを綴り、そして、人の道を外れるような、しかしながら現実に十分ありそうな、意外な結末へと至る一篇だ。日本推理作家協会賞短編部門を受賞した作品であり、これぞ衝撃。

 もう一つの短篇集が阿津川辰海『入れ子細工の夜』(光文社)。一冊の古書に着目しつつ、殺人の被害者の足取りを追う私立探偵というハードボイルド風の構図の第一話や、犯人当てミステリを大学入試に用いる試みを描く第二話、学生プロレスの面々が覆面で集う第四話など、スタイルは異なるがいずれも意外性に満ちた短篇が並ぶ。なかでも注目したいのは第三話である表題作だ。読者の目撃する光景が二転三転していく様は華麗の極み。上質のミステリ短篇を読む喜びを具体化した一篇だ。

 一九九〇年代に生まれた二人によるこの二冊全九篇、いずれも個性的で現代的でひねりが効いている。さらに竹田人造も九〇年の生まれであり、新鮮な波を感じる。

新潮社 小説新潮
2022年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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