『画聖 雪舟の素顔』
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『画聖 雪舟の素顔 天橋立図に隠された謎』島尾新著(朝日新書)
[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大准教授)
雪舟最晩年に描かれた水墨山水画の傑作「天橋立図」は、この風景を描くためには高度数百メートルの空に浮かぶしかないという視点の絵でありながら、名所や寺社がやけに正確に描かれている。著者はこの謎を解くため、雪舟の若い頃からの足取りを追いかける。
そこからわかったことは多い。雪舟は自己演出に長(た)けた人間であった。だから雪舟をめぐって記された文章を鵜呑(うの)みにしてはいけない。また彼は周防の戦国大名大内氏のもとで、画業だけでなく外交に携わるスタッフとしても重用されていた。大内氏が派遣した遣明船にて中国に渡り、足かけ三年滞在したことで彼に転機がおとずれる。
後年「画の師を求めて」中国に渡り漂泊したように書かれているがとんでもない。遣明使節の「随行カメラマン」として自分の目で見た中国の風景や人物をスケッチする任務があった。その後、豊後府内や美濃へ派遣された時、その技術を活(い)かして大内氏に当地の情報を絵で伝えたらしい。
最後に「天橋立図」に込められた重要な意味が明かされる。それは読んでのお楽しみである。