『生きつづける民家 保存と再生の建築史』中村琢巳著(吉川弘文館)

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生きつづける民家

『生きつづける民家』

著者
中村 琢巳 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
工学工業/建築
ISBN
9784642059480
発売日
2022/04/20
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

『生きつづける民家 保存と再生の建築史』中村琢巳著(吉川弘文館)

[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)

木材再利用 工夫の歴史

 現在、日本の住宅は建築後その価値が急速に低下し、40年に満たず取り壊されることが多い(木造住宅の税務上の法定耐用年数は22年にすぎない)。湿気の多い日本では、特に木造の住宅が消耗品的になることは仕方がないと思いがちだが、かつての日本の庶民の住宅(民家)は違い、むしろ長持ちさせるための多くの工夫がされていたことを本書は教えてくれる。

 民家の材料となる木材は近代以前は職人による手仕事により供給されており経済的価値が高く、そのため木材を再利用するなど長く使い続けるための工夫がなされていた。木材同士は釘(くぎ)や金物を使わない継手仕口(つぎてしくち)で接合され、また民家の部材は規格化されていたので、あたかもブロックのように一度組み合わせた部材をほどいて再利用したり、傷んだ部分だけを取り替えたりすることが可能だった。そのため民家は建設された後に修繕や増改築を繰り返して維持され、解体された後も部材は再利用されたり移築されたりして循環して生き続けた。また民家をメンテナンスする過程では大工や左官などの職人への多くの仕事が生まれる。そして多大な労力が必要な民家のメンテナンスには地域社会の相互扶助が必要であった。このように民家を多くの人の手をかけて維持していくことは、希少な資源を循環させるとともに、地域に仕事とコミュニティを生み出していくものでもあった。

 近代に入りこうした民家の特徴は失われていくが、明治以降も昭和前期まで民家は新しい生活様式に対応して増改築されて使われ続ける。近年は大学生や市民の参加による新たな民家の再生や活用も模索されているという。

 現在の日本では住宅寿命の短さが問題視される一方、空き家問題も深刻化している。こうした問題を解決していくためにも、多くの人との関わりの中で限られた資源を循環させ活用してきた、社会的な存在としての民家の在り方を改めて見直す必要があるだろう。

読売新聞
2022年7月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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