『忍者とは何か 忍法・手裏剣・黒装束』吉丸雄哉著(角川選書)

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忍者とは何か 忍法・手裏剣・黒装束

『忍者とは何か 忍法・手裏剣・黒装束』

著者
吉丸 雄哉 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784047036239
発売日
2022/04/04
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

『忍者とは何か 忍法・手裏剣・黒装束』吉丸雄哉著(角川選書)

[レビュアー] 小川哲(作家)

忍術・逸話 創作を検証

 忍者は存在しない。本物の「忍び」は黒装束を着ていないし、手裏剣も使わない。そんなに目立つ格好をしていたら、すぐ見つかってしまう。実は、忍者が「にんじゃ」と呼ばれるようになったのも、忍者が手裏剣を使うようになったのも、第二次世界大戦後のことだという。

 本書は、近世軍記に登場した「忍び」が創作に登場するようになり、そこから漫画『NARUTO』などに代表される、現代の忍者像ができあがっていく過程を、膨大な資料を元に検証していく。室町時代の軍記『太平記』に登場した忍びは、江戸時代になるとさまざまなキャラクターを与えられていく。出身地、忍術、逸話、性格など、それぞれの時代の物語の書き手が、文献を参考にしたり、中国の作品を翻案したり、あるいは完全に創作したりして、設定を加えてきた。その中には後代に受け継がれる設定もあり、現代まで定着したものも多い。各時代ごとに描かれた忍者像を参照しながら、「石川五右衛門」や「飛加藤」、「猿飛佐助」ら「真田十勇士」などの有名な忍者たちが、最初に文献に登場したころから、どのように人物像や設定に手が加えられていったのかを詳細に追っていく。

 著者は三重大学で、「忍者忍術学」を研究しているという。実在しない「忍者」の研究をするとは、どういうことなのだろうか。その疑問に対する答えは、本書を読めば明確にわかる。忍者を生みだしたのは、創作者の想像力であり、創作物に触れた大衆の欲望なのだ。つまり、忍者とはメディアであり、時代の鏡なのである。版本が、歌舞伎が、映画が、漫画が、小説が、そしてゲームが忍者を作りだしてきた。身分格差が忍者の上忍、中忍、下忍という階級を定着させ、冷戦がスパイとしての忍者を流行させた。

 今後、作家が作品に忍者を登場させるとき、多くの場面で参照する本になるだろう。もちろん作家だけでなく、忍者に興味がある人すべてにおすすめしたい一冊だ。

読売新聞
2022年7月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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