<書評>キャッチ・アンド・キル ローナン・ファロー 著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

キャッチ・アンド・キル

『キャッチ・アンド・キル』

著者
ローナン・ファロー [著]/関 美和 [訳]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784163915265
発売日
2022/04/12
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>キャッチ・アンド・キル ローナン・ファロー 著

[レビュアー] 河原理子(ジャーナリスト)

◆真実封じる金と力を暴露

 猛烈に面白くて、怖い。

 著者は、映画界の大物プロデューサー、ワインスタインの長年のセクハラを二〇一七年に雑誌『ニューヨーカー』で報じて、ニューヨーク・タイムズの記者二人と共にピューリッツアー賞を受賞した。本書は、#MeToo運動が広がるきっかけとなったこの報道の顛末(てんまつ)をつづったものだが、それで終わらない。

 告発を封じる構造そのものを、彼は追い続けた。その詳細な記録に、震撼(しんかん)する。

 ワインスタイン側は、弁護士のみならず、諜報(ちょうほう)機関出身者がつくった調査会社と契約。女性たちや記者を監視していた。著者も尾行されたのだが、逆にその組織に迫り、金と力を持つ者が、どんなことまでしうるのかを明るみに出した。

 自分の報道がつぶされた経緯も、つまびらかにした。

 この取材を始めたとき、彼は全米ネットワーク放送局NBCの記者だった。性暴力の取材は裏付けが難しいが、著者と同僚は決定的な証拠を手に入れた。ところが放送にゴーサインが出ない。それどころか取材「停止」を命じられ著者の契約は風前の灯に。

 「こんなものが本当に深刻な話なのか」「放送に向かない」……。これは他社向けだから持ち込むならどうぞ、とまで上司は言ったという。

 NBC上層部は、軒並みワインスタインのお友だちだった。さらに実はNBCもセクハラと無縁ではなかった。

 著者自身の痛みも記されている。彼の両親は、映画界で超有名な夫婦だった。彼の姉は、養父ウディ・アレンの性的虐待を訴えたが、当時、姉の側に立つ人は少なく、彼自身つれない対応をしてしまった。今回、取材の折々に彼は姉の言葉を聴く。その言葉が追い詰められた彼の心に、そして読者にも、ひんやりした水のようにしみ渡る。

 彼は書く。「時代は変わり、責任が問われるようになった。それでも、世に出る物語ひとつひとつの裏には、数え切れないほど多くの物語が埋もれている」

 その物語の主たちに捧(ささ)げられたオマージュでもある。

(関美和訳、文芸春秋・2530円)

米国のジャーナリスト。全米ネットワークNBCの元記者。各紙誌に寄稿。

◆もう1冊

ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー著『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』(新潮文庫)。古屋美登里訳。

中日新聞 東京新聞
2022年7月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加