『某月某日 シネマのある日常』山田稔著(編集工房ノア)

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某月某日 シネマのある日常

『某月某日 シネマのある日常』

著者
山田稔 [著]
出版社
編集工房ノア
ISBN
9784892713552
発売日
2022/06/01
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

『某月某日 シネマのある日常』山田稔著(編集工房ノア)

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 映画評論家でもマニアでもない「映画好き」。そう自任する作家が、三十年前に連載していた文章に手を入れ、改めて一冊にまとめた。「シネマのある日常」の記録である。

 好みに合いそうな作品が、小さな映画館で上映されているのを探し、「こっそりひとりで」観(み)にいく。場所は作家の住む京都と大阪、そしてたまに東京。息を吸うように映画を観るあいまに、人々と語らい、酒を飲み、本を読む。

 この年月は詩人の天野忠(ただし)をはじめ、多くの知人が世を去った、特別な時期でもあった。大学を停年で辞めたときの心境が、同時進行のような形で記されているのも興味ぶかい。

 大阪の国際名画小劇場や東京の岩波ホールといった、後年に閉じてゆく映画館の風景が描かれている。登場する周辺の人々も(そして猫も)、いまやその多くが健在ではない。

 しかし、多くの思い出がくっきりと立ち現れるようすは、本書のなかで絶賛されるダニエル・シュミットの監督作品『季節のはざまで』を思わせる。まさしく映画的、そして小説的な文章作品なのである。

読売新聞
2022年7月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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