『よみぐすり』坂口恭平著(東京書籍)
[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)
つらいことばかりで、明日なんか来ないほうがいい、と言う人にどんな声をかけたらよいのか。
「大丈夫?」大丈夫なわけがない。
「頑張って!」これ以上、何を頑張ればよいのか。
自らの携帯電話の番号を公開した「いのっちの電話」を2012年に開設、年間1万人を超える「死にたい人」の声を聞き続けている著者は、「とりあえず一つうまくいきたい物事を選んで、できるようになるまで毎日練習してみて~」と語りかけるという。
悩む人は「みんな落ち込むことに時間注ぎすぎ」、「焦燥感から手間を積むことを忘れ」ているという意見に、思い当たる人も多いのではないか。
「金もかからない、副作用もない精神安定剤、掃除」――。これは自ら躁鬱(そううつ)病を患いながら、うまい下手にこだわらず、絵描きに絵の喜びを任せず自分で描くことを楽しみ、小説も書き、畑作業もする「楽しむプロ」ゆえの金言だろう。
悩むのは心だが、意識を持つのは私たちの身体である。本書は、凝り固まった心と身体をほぐす、著者による言葉の精選集である。