『森と木と建築の日本史』海野聡著(岩波新書)

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森と木と建築の日本史

『森と木と建築の日本史』

著者
海野 聡 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784004319269
発売日
2022/04/22
価格
990円(税込)

書籍情報:openBD

『森と木と建築の日本史』海野聡著(岩波新書)

[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大准教授)

木を育て再利用する意義

 先日、都心にある繁華街の商業施設が木造九階建てで新築されるという報道に接した。このように木造高層建築の話を耳にすることも多くなってきた。新国立競技場に木材が多用されているのは周知のとおり。ことほどさように、建築の場において木の再評価が進んでいるように見受けられる。

 日本は古来、森林資源に恵まれ、人びとは日常的に木と親密な関係を持ち、これを利用してきた。その代表が建築物である。本書は、「木造建築における一本一本の木の選択から、森林からの材料供給という周辺環境まで、木そのものに徹底的にこだわって日本の歴史や文化を考えてみよう」という考えにより、古代から近現代に至る日本人と木の関係が建築という視点から捉えられている。

 古代では巨木を用いた建築が多く誕生した。柱や梁(はり)はもちろん、一枚板の板戸など建具もまた巨木から製材された。寺院や都城(とじょう)の邸宅を造営するための材料確保には、寸法などの規格化と作業の効率化が課題となる。木材運搬に馬が酷使され、短命であったというデータもある。

 中世になると巨木の入手が困難になり、小規模の部材でも建物が建築可能となるような技術の進展が見られた。ただ、継続的な森林伐採による環境破壊も深刻化し、育林など森林保全の試みも見られるようになる。資源確保と保全のせめぎ合いのなか、近世では支配者層が積極的に保全策に乗り出し、森林資源の持続的な利用が図られた。

 こうした木と人間の関係史は、文化財修理の取り組みを利用した調査の積み重ねにより深められてきた。材料を分析することで時代的・地域的特性が明らかになる。木がどこから採取されたかがわかれば、おのずと運搬・流通の仕組みの考察へとつながってゆく。

 文化財の修理・保全のためには技術の継承も重要な課題となる。木造建築の技術はユネスコの無形文化遺産にも登録された。再利用できるという木材の特性は持続性という課題にも通じ、本書が語る歴史は現代的意義を持つことになる。

読売新聞
2022年7月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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