『聯合艦隊 「海軍の象徴」の実像』木村聡著(中公選書)

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聯合艦隊――「海軍の象徴」の実像

『聯合艦隊――「海軍の象徴」の実像』

著者
木村 聡 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784121101273
発売日
2022/05/10
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

『聯合艦隊 「海軍の象徴」の実像』木村聡著(中公選書)

[レビュアー] 井上正也(政治学者・慶応大教授)

「真珠湾」成功 執着の末

 かつては陸軍に比べて「善玉」のように描かれてきた海軍であるが、近年の歴史学では、その評価もずいぶん変わってきている。本書は旧日本海軍の中核部隊であった聯合(れんごう)艦隊が政治といかに関わり、組織としてどのように変化したのかを明快に描きだしている。

 聯合艦隊といえば、東郷平八郎や山本五十六といった著名な提督に率いられた大艦隊を思い浮かべるだろう。だが、もともとは兵力に勝る敵と戦うために、非常時に部隊をまとめて運用するための臨時組織に過ぎなかった。

 第一次世界大戦後にワシントン軍縮条約が結ばれると、海軍は聯合艦隊を常置して、そこに艦船を集中させ、実戦さながらの演習によって練度を高めた。いわゆる「精兵主義」によって、軍縮体制下での劣勢を補おうとしたのである。

 聯合艦隊が海軍の象徴と見られるようになったのは加藤寛治や末次信正といった軍縮に反対する「艦隊派」が長官であった時期だ。昭和初期には海軍の大演習が新聞に大きく取り上げられ、聯合艦隊司令長官が英雄視されるようになった。

 しかし、権威の高まった聯合艦隊は海軍中央にとって扱いにくい存在であった。露骨な政治運動を厭(いと)わなかった「艦隊派」はまもなく凋落(ちょうらく)したが、日本が軍縮条約から脱退すると、聯合艦隊の規模も一気に肥大化する。

 太平洋戦争が始まり、空母と航空機の集中運用による真珠湾攻撃が成功すると聯合艦隊の権威は頂点に達した。だが、聯合艦隊は艦隊決戦にこだわり続けた。そして、補給や護衛を軽視した戦線拡大と、陸軍への非協力姿勢のために戦争後半には多くの陸軍部隊が孤島での玉砕を強いられたのである。

 聯合艦隊に限らず、伝統ある組織はどうしても過去の成功体験にひきずられがちだ。新たな環境に合わせて組織をいかに自己革新するかは古くて新しい問題だといえよう。

読売新聞
2022年7月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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