<東北の本棚>裏社会と戦う女性刑事

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ファズイーター

『ファズイーター』

著者
深町 秋生 [著]
出版社
幻冬舎
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784344039179
発売日
2022/03/24
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>裏社会と戦う女性刑事

[レビュアー] 河北新報

 山形県山辺町在住の著者による警察小説「組織犯罪対策課 八神瑛子」シリーズの5作目だ。主人公は警視庁上野署勤務の女性刑事。署内外の警察官に低利で金を貸し付け、協力者にしている。裏社会にも顔が利き、多くの情報提供者を抱える。手段を選ばぬ捜査で難事件を解決してきた八神が、暴走するやくざらを相手に今作でも躍動する。

 主な舞台は、警察関係者が襲われる事件が相次ぐ東京都内。指定暴力団の印旗会は幹部の事故死や失踪が続いていた。八神が関与を疑ったのは、ご法度だった薬物売買で荒稼ぎを始めた印旗会傘下の千波組。八神は自宅が襲撃を受ける危険な目に遭いながらも、裏社会や金で飼いならした元刑事からの情報を頼りに真相に近づいていく。

 物語を引っ張るのは、一癖も二癖もある登場人物たちだ。狂気を宿す老練な策士の千波組組長有嶋章吾に、おきて破りを繰り返す極道の片浦隆介、警察に強い恨みを持つ謎の男「斉藤」…。

 八神と男たちは、銃や日本刀、金属製の凶器「メリケンサック」を武器に戦いを繰り広げる。激しい暴力描写の連続に気がめいりそうになるものの、強者同士のぶつかり合いの行方が気になり、思わず読み進めてしまう。

 最も印象に残ったのは、印旗会系の弱小組で、服役する組長の夫に代わり組を仕切る妻の比内香麻里(かおり)。最初は夫の財産を売り払い、足抜けしようと考えていた。修羅場をくぐるうち、自分のために体を張る組員たちへの情が生まれ、身をていして子分を守るようになる。娘を持つ親として、命懸けの行動を起こす場面もある。登場時からぶれない他の主要人物と違い、物語の進展を通じて成長を遂げる。彼女の存在がいいスパイスになっている。(柏)
   ◇
 幻冬舎03(5411)6211=1870円。

河北新報
2022年7月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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