営業成績世界2位の実績を持つ和田裕美の母親は放任主義 実話をベースに描いた小説に込めたメッセージとは

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タカラモノ

『タカラモノ』

著者
和田裕美 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575522358
発売日
2019/06/13
価格
672円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「正しい母親」にならないといけないのか? 営業成績世界第2位にもなった元外資系企業勤務の女性が支えにした、型破りな母の言葉とは 感動の親子小説『タカラモノ』著者・和田裕美インタビュー

[文] 双葉社


和田裕美氏(撮影:安岡 花野子)

「親ガチャ」という言葉があるように、子にとって親は、自分では選ぶことの出来ない存在だ。

 今話題の小説『タカラモノ』は、家庭の外に恋人を作り、世間の常識に囚われず自由に生きる“困った”母親のもとで育った少女・ほのみが、自立した大人の女性になるまでの成長を描いた物語である。

 主人公のモデルでもある著者の和田裕美さんは、かつて外資系企業での営業成績で世界第2位にもなったことのあるビジネスパーソンであると同時に、著作累計220万部を超えるビジネス書作家でもある。

 磨き抜かれた成功哲学で数多くの人の背中を押し、前向きなエネルギーを与え続けてきた和田さん。その土台となった「自己肯定感」は、意外なことに“困った母親”に育まれたものだという。

 決して、世間から見て「正しい母」「良き妻」ではなかった一人の女性から、娘である著者が受け取った最大の“学び”とはなんだったのか。このたび、和田さんに小説『タカラモノ』についてお話をうかがった。

モラルを超えたところにあった、誰もが憧れる「母の生き様」

和田裕美(以下=和田):この作品は、わたしが実際に育った家庭をモチーフとしています。放任主義な母、ケチでいじわるな父、生真面目な姉と、引っ込み思案のわたし……すごくポンコツですよね(笑)。わたし自身、自分の過去やあの当時の家庭環境は受け入れ難いものだったし、父親とは母親が亡くなってから親子の会話がようやくできるようになったけれど、普通に二人っきりでいるのはしんどかったんです。
 でも、わたしの人生ってあの「過去」のおかげでやっぱりどんどん開けていったんです。「家族」としてはダメだったけれど「人間」としての学びを実は得ていたのではないかと、次第に考えるようになりました。
 家族として、親としてはダメな人でもほんとうはモラルを超えたところに案外、憧れるような「生き方」があったのではないかと。だから、父が死んでからこの過去を物語にしたくなったんです。

──ほのみの母親は、外で恋人を作って家を出てしまったり、ほのみに「どうぞ、グレてください」と言い放ったり、全然「正しい母親」ではないですよね。けれど、なぜか周囲のみんなは彼女を愛してしまいます。ほのみの母親の魅力とは、一体どこにあったのでしょうか。

和田:“潔さ”だと思います。作中でも、「私は私の人生を生きる。他の人は関係ない。そして全部自分で責任をとる、明日死んでも後悔しない」こう言い切っているわけですよね。そうやって生きているからこそ人にも世の中にも、とても寛容なのです。わたしたちって結構、寛容になれなくて苦しんでいませんか?

──「親ガチャ」という言葉もありますが、主人公のほのみも、自分にはどうしようもない環境があり、苦労を背負った一人です。しかし、自分の不遇に嫌気が差したほのみが「ママのせいやで」と言い募ると、逆に母親から意外な言葉を返されるシーンが印象的でした。

和田:他人に寛容になれないと、「こうあるべきなのに」「なんでわかってくれないの?」って不快になるし、自分にも寛容になれなくて「こういう人でいなくっちゃ」「自分はダメな人間だ」となってしまう。それって苦しいんです。
 でもその世界で生きるしかないじゃないですか。だからこそ、ほのみに対してママはあのように言い返しました。きっと、正しい親ならこうは言わない。けれど「自分の人生に責任を持つ」を体言して生きているからこそ、ほのみのママは潔くてかっこいいわけです。世間の常識を超えたところの存在だからです。ぜんぜんダメなのにすごくかっこいいという矛盾が彼女の魅力なんだと思っています。

「成功した人からの指南書」を読んでも、その人にはなれない

──作中で「世の中って結果ばっかりや。達成することばっかりや」と主人公の母が嘆く台詞がありますね。和田さんが普段手がけられるビジネス書では、「成功」を目指して執筆されることが多いと思いますが、小説というジャンルだからこそ書けたことはありますか?

和田:長くビジネス書を書いてきましたが、ビジネス書って基本的には「成功した人からの指南書」の要素が多いんです。導くゴールも(いろいろな意味での)「成功」となり、どこか上から目線になってしまう。
 でも、小説はこれとまったく正反対で、ダメな人が主役になれて、導くゴールもたくさんあるんです。この真逆感が自分にとってはわくわくすることでした。「成功した人からの指南書」を読んでもやっぱりその人になれない。だからこそ小説でないと描けない世界にこそ、本当は学びが多いのでは? と思っています。

──小説では、母親のみならず、姉や父親なども重要人物として登場しますが、実際の家族をモデルとして書くときに、和田さんが気を付けていたことなどはありますか?

和田:実話とフィクションを織り交ぜて書いたとなっているのですが、実際に「これは実話」と言っても記憶が鮮明なわけじゃなくて「こんなことあったかな? でも、どうだったっけ?」程度の曖昧なものも多いんです。だから、もしかしたら細かな設定はほぼフィクションかもしれない。
 実際に姉も読んだときに「こんなことあったんだ~~」とリアルにあったことのように受け止めていました。「いや、それはフィクションだよ」と教えてあげると、「もう記憶がわからない」と(笑)。家族の描写がすべてリアルだと、少なからず、たとえ死んだ人であっても傷つけたり秘密を暴露してしまいます。わたしが大事にしたことは「なにが本当かはわからない」からこそ「ほんとう」を書けるということです。

生まれる環境は選べないからこそ、この本を読んで欲しい

──この作品は、「付箋だらけにして読んだ」など、物語を楽しみながら、同時に何かを学びとるように読まれる方も多いようです。この作品が多くの人から注目される理由はどこにあると思いますか?

和田:そう言っていただけるととても嬉しいです。わたしは自分でも小説を読むと心に響く台詞に線を引いたり書き出したりします。「言葉」は人生を歩くための杖のようなものだと思っていて、そこで巡り合った言葉があるから、挫折しても、凹んでも、起き上がって前に進めることがあるんです。
 わたしは小説という物語を通して、読んだ方の「人生の杖」になるような言葉を書きたいと思いました。いや、まだまだ稚拙だし、自己啓発みたい! って思われるかもしれませんし、こういうのは文学ではないと言われる方もいらっしゃるとは思うんですが、やっぱりわたしは自分の「言葉」で人を元気にしたいと思っているんです。もっともっと、書き続けたいです。

──これから『タカラモノ』を読む方へのメッセージを頂けますか?

和田:生まれた環境って選べないですよね。他人と比較したり、常識で測ったりすると、もう幸せってどんどん遠のいてしまう。けれど、悪いことのなかにもきっとなにか「いいこと」が潜んでいる。それをたくさん見つけて自分の人生を輝かせてください。この小説がそんな「幸せのカケラ」を探すお手伝いができたら嬉しいです。

COLORFUL
2022年7月21、22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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