仕事柄、人を殺すことばかり考えている 映画監督・脚本家の片岡翔が明かした職業病

エッセイ

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その殺人、本格ミステリに仕立てます。

『その殺人、本格ミステリに仕立てます。』

著者
片岡翔 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914752
発売日
2022/07/21
価格
1,925円(税込)

書籍情報:openBD

人を殺すことばかりを考えている。『その殺人、本格ミステリに仕立てます。』著者新刊エッセイ 片岡翔

[レビュアー] 片岡翔(映画監督、脚本家、小説家)

 映画でもドラマでも小説でも、掴みが大切だと思っている。スリラーやミステリーだと、できるだけ早く事件を起こそうと試みる。序盤で興味を引けるかどうかが勝負だ。

 コロナ禍になり、カフェの隅っこでリモート打ち合わせをしていた時のこと。小声を心掛けていたのに、つい普通の口調で「もっと早く殺した方がいいですよ」と言ってしまった。

 隣に座っていた女性が目の端で僕を見た。

 殺し屋だと思われた……。さすがにそこまで自意識過剰ではないが、下品で野蛮な男だ、くらいには思われただろう。

 また別の日、電車内でスマホにメモした殺害方法を見ていた時、誤って音声読み上げボタンを押してしまった。

「ギロチンで首を切る」

 隣に座っていた婦人がぴくりと動き、僅(わず)かに身を離した。

 いくらなんでもベタすぎるわよ、などと思ってくれるならまだいいが、いつでも逃げられる体勢をとられたに違いない。

 誰が、いつ、どこで、どうやって殺すのか、殺されるのか。自分がそんなことばかりを考えていることに気がついた。散歩している時も、お昼を食べている時も。幼稚園のきりん組の教室から出てくる娘を待っている時にさえ考えている。

 ヤバいなと思いつつ、そんな生業(なりわい)に素晴らしさを感じずにはいられない。こんなに楽しい仕事が他にあるだろうか。

 IKEAに買い物に行った時のこと。ミステリ小説の舞台となる「九角形の館」の間取り図を描かなくてはならず、フードコートでミートボールを摘みながら考えていた。

 ひそひそ声が聞こえて振り向くと、小学生の姉妹に間取り図を覗かれていた。僕が九角形の館に、どうIKEAの家具を配置するか、悩んでいると思ったのだろう。

 絶海の孤島に建つ奇怪な館に、カラフルなIKEAの家具が並んでいる。そこでくつろぐ姉妹を想像すると、殺人鬼は退散した。やっぱり、こんなに楽しい仕事は他に無い。

光文社 小説宝石
2022年8・9月合併号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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