児童文学「ピノッキオ」のスピンオフ作品が登場 ジュゼッペじいさんの生い立ちや恋愛遍歴、息子への思いを描く

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呑み込まれた男

『呑み込まれた男』

著者
Carey, Edward, 1970-古屋, 美登里, 1956-
出版社
東京創元社
ISBN
9784488011147
価格
2,310円(税込)

書籍情報:openBD

児童文学「ピノッキオ」のスピンオフ作品が登場 ジュゼッペじいさんの生い立ちや恋愛遍歴、息子への思いを描く

[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)

 丸太から彫った人形が動き、自分を〈バッポ(お父ちゃん)〉と呼ぶ。人形に命を与えた創造主であり父となった喜びと、モノでしかないはずの人形がモノであることを拒むということへの混乱と嫌悪感。相反する感情をコントロールできないジュゼッペは、〈おとこのこになりたい〉というピノッキオにつらく当たる。しかし、失って初めてその存在のかけがえのなさに気づいた彼は、迫害されて海に流された〈息子〉を探しに小さな舟で航海に出るのだ。巨大な魚に呑み込まれてしまったジュゼッペだが、魚が呑み込んでいたマリア号という大型船をホテル代わりにして、船長の航海日誌に、自身の生い立ちやこれまでの恋愛遍歴、息子への思いなどを綴っていく。

 ゴミから財を築いた一族の物語〈アイアマンガー三部作〉の主人公・クロッドやルーシー、マダム・タッソーの数奇な生涯を描いた『おちび』のマリーなど、子どもの健気さや冒険心がケアリー作品の魅力。本書でもピノッキオや幼い日のジュゼッペの愛らしさに胸を掴まれる。実は陶器の絵付け師の名門一家の出であるジュゼッペは、父の期待に応えられず、大工という違う道を選んだ。自由な発想と豊かな創造性に富んだピノッキオは、実はジュゼッペ自身にそっくりなのに、自分の思い通りにならないことに失望する。しかしそれは自分が父から受けた傷でもあったことを思い出し、無意識のうちに同じ傷をピノッキオに負わせた自分を責める。

 父と子の確執、親の哀しみと子の哀しみ、現実と妄想とが鏡映しになって、日誌の中でめまぐるしく場面は変わる。蝋燭(ろうそく)の本数がカウントダウンされていく中、ジュゼッペの運命を見守るハラハラ感。なにより、ラストの余韻がすばらしい。

光文社 小説宝石
2022年8・9月合併号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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