【聞きたい。】渋谷智子さん 『ヤングケアラーってなんだろう』

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ヤングケアラーってなんだろう

『ヤングケアラーってなんだろう』

著者
澁谷 智子 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784480684240
発売日
2022/05/11
価格
836円(税込)

書籍情報:openBD

【聞きたい。】渋谷智子さん 『ヤングケアラーってなんだろう』

[文] 油原聡子

■家庭にケア担う余力なく

ヤングケアラーとは、本来大人がするような家事や家族のケアを担っている18歳未満の子供を指す。子供が買い物や料理などの家事や介護を担うと美談で語られがちだ。だが、厚生労働省の調査によると、きょうだいの世話に1日平均4・4時間も割いている中高生ら、過度な負担を背負わされている子供もいる。

本書は、若い世代に向けて平易な語り口で書かれた入門書。ヤングケアラーが生じる背景や、どんな問題を抱えているのかなどを解説。障害のある母親の世話をしていた元当事者の体験談も紹介、過酷な実態を知ることができる。

「これまでの本や講演は専門職や大人向けが多かった。若い世代が考えるための、年齢に合った材料が少ないと感じていました」

スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーら専門職は、子供のつらい気持ちを聞いてくれたり、勉強や生活の環境を整えてくれたりする。しかし、子供自身が自分の境遇に問題があることを自覚しづらく、助けを求めないケースが少なくない。

本書では、具体的な支援例も盛り込んだ。「当事者も行政も、相談したらどうなるかのイメージを共有することが必要」と話す。

支援の先進国・英国で学び、日本で研究を続ける中で気づいたのが、日本社会の想定する家族と現実の乖離(かいり)だった。育児も介護も家庭で完結させるため、男性の稼ぎ手とケアを担う女性という組み合わせを想定しており、長時間労働になりがちだ。しかし、現実には共働きの夫婦やシングルマザーもいる。

「昔は親戚や近所の人も一緒にケアを担っていたが、今は核家族化が進み、家族が孤立した状態。家庭でケアを担う余力がなくなっている」と指摘する。

最近では、自治体の取り組みも広がってきた。「自分だけで抱えていると、しんどくなってしまう。相談することで広がっていく世界もあると知ってほしい」と呼びかける。(ちくまプリマー新書・836円)

油原聡子

   ◇

【プロフィル】渋谷智子

しぶや・ともこ 成蹊大教授。昭和49年、東京都生まれ。著書に『ヤングケアラー 介護を担う子ども・若者の現実』など。

産経新聞
2022年7月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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