中江有里「私が選んだベスト5」

レビュー

10
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 空をこえて七星(ななせ)のかなた
  • 両手にトカレフ
  • 飛び立つ季節
  • わたしからはじまる
  • 拾われた男

書籍情報:openBD

中江有里「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 中江有里(女優・作家)

加納朋子『空をこえて七星のかなた』は星がつなぐ七篇の連作短篇集。北斗、七星、美星、昴太……星にまつわる名前の登場人物たちの物語はいずれも成長譚、篇によっては謎解きとしても読めるが、本書は七篇を通して読むことで物語世界がひとつに収束する。

特に印象的なのは同級生の過失によって目を怪我した少女の物語。

「周りのクラスメイトたちは皆、心配だと言ってくれるその舌で、私の不幸をじっくりと嘗め回している」

心に潜む差別や偏見を突き付けられる思いがした。

視点が時空によって変わっていき、最後の短篇「リフトオフ」にたどり着いた時、最初から読み返したくなること間違いなし。

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者ブレイディみかこ氏による小説『両手にトカレフ』。十四歳のミアは短くなった制服のスカートを穿く貧困層の少女。アルコールとドラッグに溺れる母と幼い弟の面倒を一人で背負っている。

本書はミア視点の語りに、彼女が読むカネコフミコの自伝が挿入される構成だ。日本の大正期のアナキストであるフミコと現代のイギリスで暮らすミアを取り巻く状況は驚くほど似ている。

大人たちに翻弄されながらも必死に生きている彼女たちがもし目の前にいたとしたら、何をしてあげられるだろうか。人が人を救うこと、相手の信頼を得ること、ミアのような子に公的支援外で支えるシステムがあれば、と考えた。

国内移動の新幹線車内誌で度々読んでいた沢木耕太郎氏のエッセイを編んだ『飛び立つ季節 旅のつばくろ』ではコロナ禍で控えている私的な旅を思い返していた。著者はふと思い立って列車に飛び乗って出かける。旅の過程、出会った人、印象深い出来事を語る相手は読者でありかつ、自身でもあるのだろう。

東北を一周した十六歳の一人旅。最後に訪れた田沢湖の砂地の白に惹かれて、ビニール袋に入れて持ち帰ったひとつかみの砂。土産代わりに友人に渡したら微妙な表情を浮かべられた。一人旅の感動は誰ともシェアできない……心置きなく旅をする日が待ち遠しくなった。

『わたしからはじまる 悲しみを物語るということ』の著者、入江杏氏は二〇〇〇年に起きた世田谷事件の被害者遺族。社会が抱く「被害者像」に抗い、自らの物語を語り始める。病気や虐待、いじめ、災害、貧困……それらに伴う悲しみを言語化した事例と、十三冊の本も紹介される。

ドラマ化されたのをきっかけに手に取った松尾諭『拾われた男』。社長の航空券を拾ったことから、モデル事務所への所属が決まる著者の「史実をもとにしたフィクション」。こういうジャンルがあったのか! と膝を打つエピソード満載。自虐的でどこか冷めた筆致のバランスが癖になる。

新潮社 週刊新潮
2022年8月11・18日夏季特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加