『米露諜報秘録1945―2020 (原題)THE FOLLY AND THE GLORY 冷戦からプーチンの謀略まで』 ティム・ワイナー著(白水社)

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米露諜報秘録1945-2020

『米露諜報秘録1945-2020』

著者
ティム・ワイナー [著]/村上 和久 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784560094365
発売日
2022/07/04
価格
3,300円(税込)

書籍情報:openBD

『米露諜報秘録1945―2020 (原題)THE FOLLY AND THE GLORY 冷戦からプーチンの謀略まで』 ティム・ワイナー著(白水社)

[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

ウクライナ侵攻 必然か

 冷戦期から近年にいたる米ソ・米露間の熾烈(しれつ)なスパイ合戦や騙(だま)し合いを、公開文書を駆使しつつ赤裸々に跡づけたのが本書である。原著が出版されたのは2年前だが、読み終わると、ロシアによる今回のウクライナ侵攻はいわば必然の流れだったのだと理解できる。

 米ソ冷戦は核抑止による「長い平和」とも言われるが、内側ではCIAとKGBによる過激な「政治戦」が展開された。当初米国はスターリンの諜報(ちょうほう)戦と破壊活動の前に出遅れたが、「マーシャル・プラン」や「ラジオ自由ヨーロッパ」等により遅れを取り戻した。これに負けじと、ソ連はKGBの中にフェイクニュース(偽情報)製造のためのD局を設置した。

 冷戦期の米ソ間の何でもありの諜報戦に関しては、イタリア総選挙、イランの王政復古、コンゴの軍事クーデター、ポーランドでの反ソ蜂起などを中心に描かれている。D局は、日本の「軍」をアジアのどこでも使用可能だとの日米密約の偽情報を拡散させたという。

 ゴルバチョフの登場によって米ソ冷戦は終結した。エリツィン時代の両国関係はさらに好転し、クリントンはG7(先進国首脳会議)にロシアを入れてG8にするくらい信頼した。

 しかしプーチンは帝国喪失の現実を嘆き、米国によるNATO(北大西洋条約機構)拡大を心底嫌悪していた。ウクライナなしにロシア帝国は成立しないと彼は考え、それが2014年の軍事行動に繋(つな)がった。また、KGB出身の彼はサイバー戦こそが対米戦の核心と考え、米大統領選ではトランプ当選のために米国内で偽情報を拡散させ続けたと著者は分析する。

 本書の原題は「愚行と栄光」。著者は「栄光」のために繰り返される「愚行」の数々に照射する。今回のウクライナ侵攻という「愚行」はプーチンの「栄光」のためか、それともロシアの「栄光」のためか。両者に矛盾がないとすると、紛争の終わりが見えない。村上和久訳。

読売新聞
2022年8月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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