『ヘルパーと高齢者のちょっと素敵な時間』向山久美著(ドメス出版)

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ヘルパーと高齢者のちょっと素敵な時間

『ヘルパーと高齢者のちょっと素敵な時間』

著者
向山久美 [著]
出版社
ドメス出版
ISBN
9784810708608
発売日
2022/05/09
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

『ヘルパーと高齢者のちょっと素敵な時間』向山久美著(ドメス出版)

[レビュアー] 堀川惠子(ノンフィクション作家)

介護の悲喜 爽やかに

 父の介護が始まり、医療や福祉のプロたちと接点が増えた。本書のタイトルが気になって手に取ったら、思わぬ深い世界が広がっていた。

 著者はヘルパー。就労の動機がすごい。夫の介護現場でギスギスした空気に驚き、それなら自分がやってみようと飛び込んだ。元キャリアウーマン、蔵書に囲まれたジェントルマン、介護されるプロ。さまざまな人生を歩んだ人たちが新米ヘルパーの前に現れる。叱られ、諭され、ともに泣いて抱き合って、いつか最期を見送る時がくる。「死んでいくとはこういうこと」を教わりながらも、対象との距離感がいい。ヘルパーは週に数時間、閉ざされがちな在宅の空間に、外からの新鮮な空気を運ぶ役割もになう。涙あり笑いありの爽やかな筆致は、どこか山田洋次監督の作品群を思わせる。

 排泄(はいせつ)介助のシーンが忘れられない。ある女性はトイレの失敗が続き、「もう死にたい」と漏らしていた。体調が回復したある日、必死にベッドから車椅子に移り、トイレの前から数歩ほど歩けて久々に用をたせた。そこで発した言葉は「人間らしくなりました」。排泄の自立は、尊厳の基本。介助者はオムツなど手っ取り早い処置で済ませがちだが、排泄介助にはとりわけ工夫が必要と著者。こんなヘルパーに出会えたらと思う。

 最近はヘルパーの仕事も細分化され、時間も短縮。ニーズに添えないことが増えたという。重労働ながら相変わらずの低賃金。著者もやりがいのある仕事と誇りを持ちつつ、手放しでは勧められないと嘆く。どんなエラい人だって、最後は誰かのお世話になる。問題が指摘されて久しい介護分野の待遇改善に、政治や行政は自分ごととして取り組んでほしい。

 実はこの本、わが母も読んだ。読後にポツリ、「お金がないと老後は大変ねえ…」。確かに、介護を受けるには相応のお金が必要。そんな厳しい老後の現実も著者はさらりと書いていたな。

読売新聞
2022年8月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加