「投資は自己責任」でも「詐欺」だったら? 借金2億円の詐欺被害にあった当事者が語った不動産投資の怖さ

インタビュー

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かぼちゃの馬車事件

『かぼちゃの馬車事件』

著者
冨谷皐介 [著]
出版社
みらいパブリッシング
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784434294266
発売日
2021/10/20
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

本当はこわい不動産投資。借金2億の地獄を見たしくじり先生に訊く、スルガ銀行と“不正直不動産”の闇

[文] みらいパブリッシング

 老後の生活を見越した資産形成やリスクの分散を目的とした資産運用など、投資に対する関心が高まっています。しかし、こうした投資には心無い人たちによる詐欺が存在しているのも事実です。なかでも不動産投資は私たちにとって身近な投資の一つで、世間を騒然とさせた事件も発覚しています。

 今回は2018年に発覚したシェアハウス投資をめぐる詐欺事件、通称「かぼちゃの馬車」事件の当事者となり、2億円の借金を背負った冨谷皐介さんに、自身の体験を交えながら、不動産投資の怖さや投資に対する心構え、被害にあったときの戦い方などを語っていただきました。

 詐欺を働いたスルガ銀行と不動産会社との死闘の末に騙された946人分の借金約1500億円をすべて帳消しにした冨谷さんの逆転劇はNHK「逆転人生」でも取り上げられています。

「なかなか、マイナス2億からゼロまで戻ってくるのは至難の技です。だから、這い上がり方を教えるのではなく、そもそもそこまで落ちないように気をつけて、と伝えたいんです。私はそんな”しくじり先生”なんですよ」

 そう語る冨谷さんは一般社団法人を設立し、現在も詐欺にあった被害者の救済を支援しています。自身の問題が解決した後も、支援に取り組む冨谷さんの熱い想いも伺いました。


かぼちゃの馬車事件の被害者の一人で、現在は一般社団法人ReBORNsの代表の冨谷皐介さん

正直じゃないから成り立つ「正直不動産」というタイトル

――冨谷さんが刊行した書籍『かぼちゃの馬車事件』を読んで衝撃を受けました。スルガ銀行という、よく電車の窓から見えるあの銀行が不動産会社と組んで書類の改ざんや不正融資を行なっていたこと、借金の苦労で11キロ痩せ、家族を救うために自分が死ぬしかないと考えたこと。わたしも不動産投資に興味があったのですが、今はちょっと躊躇してしまいます。

 みんな多かれ少なかれ将来への不安があると思うのですが、そこにつけ込まれて騙されてしまうんですよね。「そんなに難しくないから」「みんなやってるから」って。

 とくに不動産の買い物は、あまりにも日常生活で使う金額と乖離しているので、みんな物件の価値や近隣相場をあまり調べないんです。被害者は、例えば1千万の価値の物件を3千万で買わされたりしているんですよ。

 私もそうでした。スルガ銀行から全額融資を受け「かぼちゃの馬車」という名前のシェアハウス1棟を1億9000万円で購入したんです。でも約束されていた家賃収入が一度も入らないまま不動産業者が破綻し借金だけが残りました。

 不動産のことが何も分からない人たちを赤子の手を捻るように騙しにかかる。この業界はおかしい。おかしいんです。

――山Pの愛称で知られる山下智久さんが主演したドラマ「正直不動産」も話題になりましたよね。

 あのドラマはビッグコミックに掲載中の漫画が原作なのですが、私が被害に遭ったスルガ銀行の話題も「スルガスキーム」という言葉で出てくるんですよ。

 とにかくタイトルが秀逸ですよね。「正直不動産」って、正直な業界じゃないから成り立ってしまうタイトルですからね。

 不動産業界で働く人に聞いても、「この業界の8割は悪人ですね。僕も含めてですけどね」って言うんですよ。私は、この業界をなんとか正常にしてみたいと思っています。

不動産投資に失敗しないコツは、手を出さないこと

――8割が悪人……自分を騙そうとする人を見抜くコツというのはあるのでしょうか?

 悪い人に限って良さそうに見えるので、人を見抜くのは難しいと思います。

 もし不動産投資をしたいなら、物件そのものを見るしかない。本当に金額に見合った価値があるのか。でも、素人がそれを見抜くのは無理なんですよ。つまり、買わない方がいいということです。

――すがすがしい結論ですね。他の投資はどうでしょうか? たとえば仮想通貨とか。

 うーん。まだ市場が成熟していないし、情報が行き渡っていなくて調べるにも限度があるし、やめたほうがいいと思います。やるなら株がいいんじゃないですか? 市場が成熟していて、すでに万人に情報が平等に与えられているので。勉強して、自己責任でやってみてもいいと思いますよ。

「脇が甘いから騙されたのではないか」と思っていた

――それにしても、どうしてみんな「自分だけは大丈夫」と思ってしまうのでしょうね。

 そうですよね。私も、自分が被害に遭うまでは、詐欺被害の話を聞いても「脇が甘いから騙されたのではないか」と思ってました。でも実際、私はスルガ銀行の行員に騙されたんです。「地銀の優等生」と言われていた銀行の、世間的に信用があるとされている行員に。

 事件当時、会社の同僚にはすべてを一切知られないようにしていました。被害に遭ったことをカミングアウトしたのは、事件が解決して会社を退職してからです。退職した後に「実は……」と伝えて、「この本にすべて書かれているので買ってください」と自著を紹介したんです。

 本を読んで、みんな初めて分かったんですよ。「冨谷さんみたいな人が?」ってすごく驚かれました。こんな堅実な人間がって。私も未だに、なんで自分がこんな事件にあったのかな、と思うんですよ。私も遭うなら、世の中のすべての人にとって他人事ではないと思いました。

 こういう事件があったんだと頭にインプットしておくと、みなさんの自己防衛能力が高まると思うんですよ。体に免疫があれば抵抗できる。だから、多くの人にこの事件のことを知ってもらいたいと思っているんです。


YouTubeではカルト集団の被害者救済で知られる紀藤正樹弁護士とも対談

「こんな活動してたら殺されますよ」って言われたことも

――顔と名前を出して発信するのは怖くないですか? 賛同の声に混ざって「自業自得」「投資は自己責任」という批判もときどき見受けられます。

 私も基本的には、投資は自己責任だと思っています。でも、私は投資に失敗したのではなく詐欺に遭ったんです。それを強く確信したから戦い抜くことができました。

 怖いという気持ちはなかったですね。被害者同盟の設立当初、「こんな活動してたら殺されますよ」って言われたこともありますが、「殺すんだったら殺せよ」って思ってました。私が解決した金額は、総額約1500億円です。私が存在しなければ、スルガ銀行はこの金額を精算しなくて済んだんですよね。さすがにこの額が動くと人の命が関わってもおかしくないのかなとも思います。まぁ、問題が解決した今は「やっぱり殺さないでください」と思っていますが(笑)。

 もう自分の問題が片付いたのに、まだ顔を晒してバカじゃないの? と思う人もいるでしょうね。でも、私が発言することで1人でも2人でも被害を減らすことができるなら、それは意味のあることだと思っています。

――冨谷さんは、自分の事件が解決したあと、会社を辞めて一般社団法人を立ち上げ、他の詐欺被害者の方達の救済活動をしているんですよね。

 はい、土日なくずっと動いてるのでフリーランスみたいな感じです。弁護団や被害者の方との作戦会議に、YouTubeの動画撮影……。作戦会議は日付を越えるまで続くこともあります。若手社員だった30代のとき馬車馬のように働いていたのですが、今もそのときのような感じでずーーーっと動いています。今日のように日曜日の朝に家にいるなんて、本当にめずらしいです。

――自分のことではなくてもそこまで本気でできるものなのですね。

 会社を辞めて退路を断ち、自分を追い込みました。

 経緯をお話しすると、自分が被害者だったときに立ち上げた被害者同盟の中に、同じスルガスキームで騙された別の物件(アパート・マンション)の被害者が25名いたんですね。私が騙されたシェアハウスの問題は解決したのに、そちらのほうは解決しなかったんです。

 スルガ銀行は「調停で解決しましょう」と言っていて、同じ構造の詐欺だからすぐに解決するだろうと思っていたのですが、結果、こちらの訴えをすべて否認してきて。それから新たな戦いがはじまってしまったんです。

 こんな状況で、自分が助かったからもういいや、なんて思えないじゃないですか。だから被害者仲間を救済するための箱として2020年の春に一般社団法人ReBORNsをつくったんです。

弁護団が大砲なら、砲弾を準備するのが被害者の役目

――すばり、勝算はありますか?

 まず、私の事件のとき尽力してくださった優秀な弁護士さんたちが再結集してくれたので、素晴らしい弁護団であるというのは断言できます。

 でも、この戦いは弁護団だけじゃ勝てないんですよ。被害者がしっかりしないと勝てない。

 例えると、弁護士は、狙ったところにしっかり当ててくれる大砲です。でも大砲は砲弾がないと撃てないんですよ。その砲弾を準備するのが被害者である 私たちの仕事だと思っています。

――砲弾を準備する。被害者の動きとして、具体的にはどんなことをするんですか?

 まずは、データを集めて分析して弁護士に提供することですね。被害者の中には企業の管理職、システムエンジニア、営業マン、医療従事者など様々な職種の人がいて、弁護士以上にデータ分析に長けている人もいるんです。

 あとは、スルガ銀行の株主総会に議案を提出するなど色々な奇策を練って実行したり、デモを行うこと。そんな風に弁護士が撃ちやすい砲弾をこしらえるんです。


苦楽を共にしてきた河合弘之弁護士(写真右)ともに会見に臨む冨谷さん

――なるほど。そう考えると、それぞれの専門性やアイデアを生かしてできることがたくさんありますね。

 私が得意なのは、弁護団や被害者団体をまとめること、チームビルディングなんです。それが勝負の鍵を握っていると思っています。

――チームビルディングが得意というのは、大企業で管理職をされていた経験が大きいのでしょうか?

 わかりませんが、もともと得意なのかもしれないですね。学生時代にサークルを立ち上げて代表を務めたりもしましたし。あと、会社にいるとき、若手の登竜門だと上司に言われて労働組合の書記長をやったことがあったんですよ。

 会社の経営陣に意見を伝えたりするわけですけど、そこで、従業員ひとりひとりの声は小さくても団体の声は無視できないものになるんだというのを知って。数は力だと思うようになったのは、この経験が大きいかもしれません。

――数は力。わたしも取材する前は、本を読んでこういうことがあったんだと知りつつも、何もしていませんでした。こういう見ているだけの人にできることはありますか?

 周りの人と「こんな事件があったんだよ」と会話してもらうだけでも嬉しいです。街頭デモでもよく言うんですよ。「ご通行中のみなさま、こういうデモがあるということを周りに話してください。さらに、よろしければツイートしてください。それがわたしたちの力になります」って。

 そうしてもらうことが、被害者を助けることにつながります。巨大組織が相手でも、数の力で勝つことができるんです。ドラゴンボールの元気玉ってあるじゃないですか。あんな感じでみんなの力をちょっとずつ分けてもらって巨大なエネルギーをつくりたいんですよ。「オラに力を!!」って感じですね。

自殺は絶対ダメ。家族や周りの信用できる人に相談して

――まずは知ること。そして周りと話すこと。

 そうですね。世の中の仕組みを知るのはいいことだと思います。今は不景気もあって、おいしい話に人の心が流れやすくなってしまう構造がありますから。言われたことを鵜呑みにするのではなく、正しいのかそうじゃないのかその本質を自分で考えること。テレビばっかり見てたらダメかもしれません。

――冨谷さんの話を聞いて、もう「自分だけは大丈夫」とは思えなくなりました。もし自分が被害に遭ったとき、どうしたらいいでしょうか。

 私は2億円の負債を抱えてしまったとき、妻には正直に打ち明けましたが、会社には気づかれないように普通を装って仕事をしていました。それなりに責任ある立場だったのでキツかったですね。過労死寸前だったと思います。

 どうしても、周りに相談できなくて1人で悩んで追い込まれて、精神やられて鬱になっちゃう人も多いんですね。私の被害者仲間にも「薬を飲まないと眠れない」と言っている人がいます。

 何か困ったことがあったら、家族や周りの信用できる人に相談してほしいです。

 それから、自殺は絶対ダメです。私も死を考えたことがありました。でも、愛する家族が悲しむと思ったんです。あと、ふざけるなって気持ちが湧いてきた。なんで俺が死なないといけないんだって。

 怒りに火がついたので戦うことにしたんです。死ぬって決めたから強かったと思います。死ぬ気になればなんでもできる。本当にそう思います。


事件解決後に行われた祝勝会でのスピーチでは表情がほころんだ

――冨谷さんのような本当の地獄を見たしくじり先生は、この日本に必要な存在だと思います。

 私は地獄を見ました。ただ、まだ地獄を見続けている人もいるので、それは放っとけないです。頑張りますので、お力添えよろしくお願いします。

***

冨谷皐介(とみたに・こうすけ)
2018年より社会問題になったスルガ銀行「かぼちゃの馬車」シェアハウス問題の被害者。自己及び同被害者の完全救済を行う為に自ら被害者団体「スルガ・スマートデイズ被害同盟」を設立。自ら団体代表を務め、日本の金融事件歴史上初の全面解決を勝ちとり約900名、1000億を超える金融被害の被害者を救済する。自らの被害解決後は同様の被害解決の為、消費者問題の救済支援団体である一般社団法人ReBORNs(リボーン)を設立。多くの被害救済に日夜活躍中。

取材・文:笠原名々子

みらいパブリッシング
2022年6月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

みらいパブリッシング

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