『戊辰戦争と東北・道南』
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<東北の本棚>民衆の視点で内乱検証
[レビュアー] 河北新報
2018年は「戊辰戦争から150年」の年だった。だがそれは東北でのこと。政府が大々的にPRしたのは「明治維新から150年」だった。宮城学院女子大名誉教授の著者は、東北の人々がなぜ戦争を強いられたのか不問にされたように感じた。戊辰戦争は避けられなかったのか。そんな疑問を持ち、理不尽な争いを回避できた可能性を探りながら検証した。
副題に「地方・民衆の視座から」とあるように、本書の特徴は東北、民衆の視点に立っている点にある。地域や兵士、民衆の史料を基に、秋田戦争や箱館戦争の実態などを分析する。
東北の各藩は戦争を回避するため、会津藩と庄内藩の征伐停止を求めた嘆願書を提出したが、新政府に一蹴された。明治政府の基本方針「五箇条の御誓文」にうたわれた公論は尽くされることはなかった。著者は新政府側が東北列藩の嘆願を取り上げていれば、その後の展開は大きく変わったとみる。
内乱で最も被害を受けたのは農民や町人だった。家を焼かれ、略奪に遭い、兵士としても駆り出された。日本はこの後、徴兵制の下、日清、日露戦争で国民を動員、太平洋戦争で多くの死者を出した。著者はその起点は戊辰戦争で、武力解決の衝動を封印、抑制していれば、かなり違う近代化の道を歩んだと推察する。
戊辰戦争の死者はフランス革命などと比べて少なく、暴力をあまり伴わずに権威体制を壊したと説く研究者もいるという。だが東北で多くの犠牲者が出た事実を軽視してはいないだろうか。著者は「戦争が始まってからでも、戦争を止め和平への道がなかったのか、そのさまざまな努力を挫折も含め、見つけ出していく戦争研究が求められている」と訴える。ロシア軍のウクライナ侵攻が世界を揺るがす現在、その主張は説得力を増しているように思う。(裕)
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芙蓉書房出版03(3813)4466=3960円。