<書評>『人薬(ひとぐすり) 精神科医と映画監督の対話』山本昌知、想田和弘 著

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人薬

『人薬』

著者
山本 昌知 [著]/想田 和弘 [著]
出版社
藤原書店
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784865783452
発売日
2022/05/27
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『人薬(ひとぐすり) 精神科医と映画監督の対話』山本昌知、想田和弘 著

[レビュアー] 山竹伸二(著述家)

◆心の治療に「自由」を

 「人薬」とは、人との関係こそが心の病の最良の薬になり得る、ということ。なぜなら、それこそが失われた自由を取り戻すことにつながるから。本書の中で、精神科医・山本昌知はそう繰り返し語っている。対談する相手は想田和弘。山本が所長を務めていた精神科診療所「こらーる岡山」のドキュメンタリー映画『精神』『精神0』で有名な映画監督だ。対話は終始和やかなムードで進むのだが、言葉の端々に精神医療に対する二人の強い思いが滲(にじ)み出ている。

 心を病んだ人たちは世間から要求される「すべき」ことに囚われ、「したい」ことができずに苦しんでいる。だからこそ治療においては、「したい」ことを言える、できる、という自由が必要になる。患者を精神病院に閉じ込め、治療と称して「すべき」義務ばかりを押しつけるやり方は逆効果であり、患者の自由をますます奪うことになる。

 「助けると言っても、何もせんでええ、患者さんの所へ話を聞きに行くだけでええ。苦しいとか、死にたいとか、暴れとればそこへ行くだけ行って、そこで温かい関心を持って、そこにおってくれさえすれば、患者さんは自分でバランスをとっていく」

 必要なのは、「時と場所を共にしてくれる人」なのだ。温かい関心をもって話を聞くことができれば、奇異に思えていた患者の行動の意味が見えてくる。理解できた喜びは患者にも伝わるため、患者は独自な存在としての自己を肯定し、自由の実感を取り戻せる。何気ない岡山弁で、時にユーモラスに語られる山本昌知の言葉は、心の治療の本質をついている。

 言うは易しだが、彼は半世紀も前から、患者を精神病院に閉じ込めるのではなく、地域で支える体制を作り、患者が自由で主体的な生活ができるように支え続けてきた。いや、「支え合ってきた」というほうが山本の実感に近いだろう。「世話をして、世話をしてもらう。そういう両輪が回る社会だったらええんじゃないか」という言葉は、これからの精神医療のあるべき未来を示している。

 (藤原書店・2200円)

山本 1936年生まれ。精神科医。岡山県精神衛生センター所長などを歴任。

想田 1970年生まれ。映画監督。作品に『牡蠣工場』『港町』など。

◆もう1冊

大田堯、山本昌知著『ひとなる』(藤原書店)。人格の完成をテーマに教育研究者と精神科医が対話。

中日新聞 東京新聞
2022年8月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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