『ユーラシア・ダイナミズムと日本』渡邊啓貴監修、日本国際フォーラム編

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『ユーラシア・ダイナミズムと日本』渡邊啓貴監修、日本国際フォーラム編

[レビュアー] 桑原聡(産経新聞社 文化部編集委員)

■「親米自立」外交は可能か

国家戦略を立案するに当たって、その出発点となるのが地政学であることは、昔も今も変わりないはずだ。第二次世界大戦後、「侵略戦争を理論的に下支えした」との批判にさらされて一時下火になったが、近年再び関心が高まっている。なぜなら、冷戦終結後の多極化時代に頻発する対立や紛争の構図を把握するのに有益だからだ。

本書が対象にするユーラシアはいま、中国の一帯一路構想、米国のアフガニスタン撤退、ロシアのウクライナ侵攻と、複雑な力学が交差し、激しく揺れ動いている。そこで日本が主体的なプレーヤーとして何らかの役割を担っているのか。「否」と答えざるを得ないだろう。

本書は、これからの日本外交が採るべき道を、日本とユーラシアの地政学的条件を踏まえて検討するものだ。ウクライナ戦争とアフガニスタン問題を扱った2つのシンポジウム、それぞれの地域の専門家が、最新の情報を提供しながら自身の知見を披露する12本の論考を収める。

政治学者である監修者は序論にこう記している。「そんな時代の節目にあって、日本の外交の原点に戻り、地政学的な立場からあらためて世界を考え直してみることは不可欠である」。ランドパワー(中露)とシーパワー(英米)のはざまにある日本だからこそ出来ることがあるはずで、主体性を持った外交の先に、日米同盟に縛られた外交からの脱却、つまり「親米自立」の外交が見えてくるはず、との期待が込められている。

対ユーラシア外交では、これまでも橋本政権の「ユーラシア外交」、小渕政権の「シルクロード地域外交」、第一次安倍内閣の麻生外相が提唱した「自由と繁栄の弧」構想、安倍政権の「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」と、従来の日米関係を超えた外交戦略の展開はあった。だが、それらは西側の価値観の共有を前提としたものだった。これに対して論者の一人は「次なる日本外交を構想するにあたって、我々が歩むべきは、価値観共有の有無を問わず、日本の友好国の輪を拡げるとともに、自国の利益を超えた『地球益』を追求し続ける、真摯(しんし)な外交戦略の道ではないか」という。この提言は考えてみる価値がある。敵対するばかりが能ではない。(中央公論新社・2970円)

評・桑原聡(文化部)

産経新聞
2022年8月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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