『靖国』坪内祐三著
[レビュアー] 産経新聞社
とかく政治と絡めて論じられがちな靖国神社を、多様な側面から捉えた本が復刊された。著者は昭和33年生まれの評論家。平成7年夏、戦没者の御魂(みたま)を招く場所が駐車場になっていることに気づく。衝撃を受けた著者は、土地の記憶を「イデオロギーによる裁断を越え」て掘り起こす作業を始める。
その結果、靖国が競馬や奉納プロレスなどで庶民に親しまれていた様子が明らかに。付近には、かつての軍人会館だけでなく戦前の東京では一番のモダンなアパートもあった。著者が地方の古書店から入手したアパート内の写真をはじめ図版が多く、興味深い。(文春学芸ライブラリー・1815円)