「ハマる」と「依存症」の違いとは? いい依存でメンタル快調に保つコツ

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依存メンタルを力に変えるレッスン

『依存メンタルを力に変えるレッスン』

著者
バク@精神科医
出版社
大和書房
ISBN
9784479761617
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

「ハマる」と「依存症」の違いとは? いい依存でメンタル快調に保つコツ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

依存メンタルを力に変えるレッスン』(バク@精神科医 著、大和書房)は、依存心、つまり依存メンタルを力に変えて人生に活かしていくことを目指すものだそう。その冒頭で、著者はまず「依存」と「依存症」の違いについて触れています。

この本は、精神科医療において依存症を専門にする人が読むことを目的としていないので、すごく簡単に「病気としての依存症」について説明したいと思います。

一見乱暴に見えるかもしれませんが、依存と依存症の違いを簡単にいうと、

「何かに夢中になっている」だけなら依存

「何かに夢中になって、そのせいで生活が困った状態になってもやめられず、医療などの介入を必要とする」なら依存症

(「はじめに」より)

いうまでもなく、夢中になること自体はとてもいいこと。それは生きがいにもなりますし、なにより生活にハリが出ることでしょう。しかし、夢中になっているもののせいで、知らず知らずのうちにまわりの人が自分のことを嫌いになり、気づいたときにはひとりぼっちになっていたとしたら、それは悲しいこと。

だからこそ、最悪の事態を避け、なにかにうまく夢中になって、依存メンタルを乗りこなすべき。本書の根底にはそんな思いがあるわけです。

具体的に解説されているのは、「依存とはどういう状態なのか?」「人はなにかに依存して生きていていいのか?」「いい依存と、ダメな依存の違いは?」などにはじまり、「いい依存にハマって毎日をちょっと幸せに生きるコツ」「ダメ依存にハマりかけてしまったら、それをどう捨てていけばいいのか」などなど。

きょうは第1章「依存ってなんですか?――依存のきほんについて、バク先生に聞いてみた」のなかから、「いわゆる『ハマる』という状態は、もしかして『依存症』ですか?」に注目してみたいと思います。

ハマり具合によります

寝ても覚めてもTwitterやゲーム、ネットニュースを見ているという著者も、スマホの使用が禁止されているところでは電源をオフにして触らない時間をつくることができるといいます。しかし、ここで注目すべきは、スマホに依存している人はそれができないということ。

試験中や会議中でもスマホに届く通知が気になってたまらず、集中できないとすれば、それは「社会的な問題が起きている」、やめたくてもやめられないダメ依存の状態だというのです。さらに依存症(病気レベル)となると、スマホを取り上げられた場合にイライラしてキレたり、暴言や暴力が出ることもあるそう。

ということは、少なくともしかるべき場所で電源をオフにできるのであれば、必ずしもハマる=依存症ではないと解釈することができそうです。(20ページより)

「社会的な問題が起こっている状態」とは?

では、社会的な問題が起こっているとは、どんな状態を指すのでしょうか? そのことを解説するために、著者は「アイドルのファン! 推し活楽しい!」という人を例に挙げています。

Aさんは人気アイドルグループBのファンです。Bの中でも特にCさんが大好き。自信を持って「Cさんを推してます!」といえるくらいにハマっています。

通勤中はBの曲を聴いたり、ライブ動画を視聴したりしながら楽しく時間を過ごします。仕事でつらいことがあっても、「給料日にCさんのグッズを予約してるんだ!」と思えばモチベーションも上がります。Bのファンミ(ファンミーティング)に行くためにときどき有給を取ったりしつつ、社会人として破綻のない生活を送っています。(23ページより)

こういう“ハマり具合”であれば、いうまでもなくコントロール良好な“いい依存”。「もっと真剣に仕事に取り組むべきだ」など異論もあるでしょうが、労働者として認められている範囲で休みを取り、ライブなどの現場に行くことで英気を養っているのは事実。したがって雇用者から見れば、「自分で自分の労働力の管理ができている」望ましい状態となるわけです。

一方、コントロールを失ったダメ依存の場合はどうなるのでしょうか?

Dさんも人気アイドルグループBのファンです。Bの中でも特にCさんが大好き。

Cさんを推すあまり、Cさんの出ている番組は全部録画しつつリアタイ(リアルタイム)でも視聴し、SNSに感想を投稿するのが生きがいです。たとえ仕事中でもそれは譲れません。トイレに行くふりをして、トイレの中で番組を視聴します。

帰宅したら、深い考察をバンバンSNSに書き込みたい。ライブやファンミなど現場の“推し事”は全通(複数回ある公演にすべて参加すること)しないと意味がないと思っています。

そのために有給は使い切りましたが、身内に不幸と嘘をつけば会社も文句はいえません。ライブが全国ツアー規模になると、Cさんを追いかけるには正社員ではいろいろと面倒なので、仕事をやめてしまいました。

仕事をしていないとお金が足りなくなるのは当たり前なので、親に「資格を取りたくて……」と嘘をついてお金をもらいます。それでも回らなくなると、Cさん以外のファンの人に、「Bがみんなで泊まっているホテルの情報、知りたくない?」と持ちかけ、お金をもらう代わりに情報を売ったりもします。仕事終わりのCさんをタクシーでつけ回し、家も特定しました。Dさんは今、最高に幸せです。(24〜25ページより)

さすがにこんな人はいないのではないかと思いたくもなりますが、ファンが芸能人の家を特定し、侵入する事件は実際に起こっています。しかも人格的に特殊な人だったり、なにかの病気なのかといえば、実のところ「普通の人」だったりもするもの。

著者も、依存度(ハマり度)が徐々に上がった結果としてこうした状況に陥ることは、誰にでも起こりうると考えているそうです。しかし、なにがDさんをそうさせてしまったのかといえば、理由はDさんにもわからないかもしれないのです。

その理由はいろいろあるものの、ひとつには「ほかに頼れる(ハマれる)ものがない」ということが挙げられるそう。

たったひとつのものにしか依存して(ハマって)いないと、次第にその依存心が心のほとんどを占めるようになるというのです。

そして、この度合いが大きくなって自分でコントロールできなくなると、依存にどんどんエネルギーを奪われることになるわけです。(26ページより)

心のよりどころとなる依存先を“ほどほどに”“いろんなところに”“意図的に”作ることが、「そこそこハマって執着しないですむ」コツです(27ページより)

著者がいうように、人はなにかしら“ハマる(ことになるかもしれない)対象”を持っているもの。そう考えると、これは記憶に留めておくべき重要なポイントだといえるかもしれません。(22ページより)

本文でも触れているように、著者は自身がTwitter依存であることを認めています。

つまり本書では、そんな立場の人間がいかにして依存メンタルと向き合い、乗りこなしているのかを明らかにしているわけです。そんなこともあり、なんらかの依存癖を自覚している方は、共感できる箇所も多いのではないかと思います。

Source: 大和書房

メディアジーン lifehacker
2022年8月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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