「野菜 手押し」で検索すると……薬物のネット密売に元麻薬取締官が警鐘を鳴らす理由

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スマホで薬物を買う子どもたち

『スマホで薬物を買う子どもたち』

著者
瀬戸 晴海 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784106109577
発売日
2022/07/19
価格
924円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「わが子に限って大丈夫」は通用しない

[レビュアー] 瀬戸晴海(元・麻薬取締部部長)


瀬戸晴海さん 撮影:新潮社写真部

違法薬物のネット密売の実態、子どもたちの薬物汚染、最新ドラッグ事情などを解説した新書『スマホで薬物を買う子どもたち』が刊行。元麻薬取締官(マトリ)の瀬戸晴海さんが、「わが子に限って大丈夫」は通用しない、と警鐘を鳴らす理由とは?

瀬戸晴海・評「『わが子に限って大丈夫』は通用しない」

皆さんは「野菜」「サラダ」「クサ(草)」「88」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。実は、これらは全て大麻の隠語です。同様に「アイス」「氷」「エス」といえば覚醒剤を指します。

こうした隠語を、「手押し」(手渡しの意味で、配達・直取引が可能なこと)という言葉と共にネット上で検索すると、ツイッターやインスタなどのSNSや、5ちゃんねる、FC2をはじめとする掲示板に次々と薬物販売広告が現れます。

ご家族に若いお子さんがいる方は、ぜひ一度、ご自分のスマホで検索してみてください。大麻や覚醒剤、コカイン、MDMAをはじめ、多種多様な薬物が公然と販売される野放図な現状を突きつけられるはずです。堂々と“ブツ”の画像をアップしてバラエティ豊富な品揃えを誇示するだけでなく、〈拡散してくれた方に1gプレゼント〉といった誘客広告まで目に飛び込んできます。

 ただ、それでもなお、多くの方々は次のように考えるのではないでしょうか。「薬物のネット密売が大変なことになっているのは分かった。でも、自分の子どもとは関係のない話だ」と。

麻薬取締官(マトリ)時代を含め、40年以上にわたって薬物対策に携わってきた私が、本書を執筆した動機は、まさにそのような認識を改めてほしいと切に願っているからに他なりません。薬物問題は決して他人事ではなく、「わが子に限って」が通用しない時代が到来しているのです。

SNSの普及がもたらした「密売革命」と呼ぶべき現象によって、誠に残念ながら、日本でも「誰もが簡単に薬物を手に入れることのできる環境」が整ってきました。端的に申し上げると、いまはスマホさえあれば、インターネット上で薬物情報を難なく得ることができます。そして、親世代よりネット知識に通じ、SNSを日常的に活用する、好奇心旺盛な子どもたちは、先ほどのような画面を当然のようにスマホで目にしています。

 2020年の薬物事犯の検挙者数は、過去10年で最多の1万4567人。中でも大麻を巡る犯罪は激増しており、中高生を含む少年だけで899人という驚くべき数に上ります。

ここで重要なのは、SNSを通じたネット密売が普及したことで、薬物に手を出すのがいわゆる非行少年だけではなくなった点にあります。親子関係が良好で、学校の成績も優秀、そんな子どもが、いとも簡単に大麻に嵌ってしまう。そうしたケースを私は何度となく目にしてきました。

先進国としては例外的に薬物乱用が少なく「奇跡の国」と呼ばれた日本は、いま、大きな曲がり角に差しかかっています。子どもたちを被害者にも加害者にもしないために、まずは、大人たちが薬物問題の現状をきちんと認識してほしい。本書がその一助となれば幸いです。

新潮社 波
2022年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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