恩田陸先生絶賛の「奇譚蒐集録」シリーズで注目を集める著者が角川文庫初登場!『薬喰』清水 朔さんインタビュー【第2弾!】

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薬喰

『薬喰』

著者
清水 朔 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041127490
発売日
2022/07/21
価格
858円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

恩田陸先生絶賛の「奇譚蒐集録」シリーズで注目を集める著者が角川文庫初登場!『薬喰』清水 朔さんインタビュー【第2弾!】

[文] カドブン

■ケンカップルみたいな男性バディが、ともに事件の謎に迫る。神隠し×民俗学ミステリーד食”! 『薬喰』著者の清水 朔さんインタビュー〈第2弾〉

大人気「奇譚蒐集録」シリーズの著者・清水 朔さんの作家像に迫るインタビュー〈第1弾〉に続き、『薬喰』作品内容の魅力に迫る〈第2弾〉インタビュー。ジビエ好き探偵×イケメン作家が、神隠しに消えた子供たちを追う。京極夏彦先生の推薦文が帯に巻かれた一気読み必至の本作。著者インタビューで作品の魅力の全貌をお届けします。

取材・文/立花もも

恩田陸先生絶賛の「奇譚蒐集録」シリーズで注目を集める著者が角川文庫初登場!...
恩田陸先生絶賛の「奇譚蒐集録」シリーズで注目を集める著者が角川文庫初登場!…

■『薬喰』著者の清水 朔さんインタビュー〈第2弾〉

――U県北篠市二桃地区という土地を舞台に、神隠し伝説を調べる作家の籠目周(かごめ・あまね)。実際に神隠しにあった子供の死体の第一発見者となってしまった彼が、犯人扱いしたのが“人肉と恐竜以外の肉はすべて食べた男”とされる祝秋成(いわい・あきなり)。神隠しと“食”がテーマになった民俗学ミステリーである本作、発想の起点はどこだったのでしょう?

清水朔(以下、清水):とある資料を読んでいたとき「これはミステリーになるな」と思ったのが発端といえば発端ですが、それをお話しするとネタバレになってしまうので、ご容赦ください(笑)。ただ、ずいぶん長いあいだ温めていたネタではあって、2014年に構想を練り、2016年に一度書いてみようとしたことはあるんです。ただ、読んでいただければわかるとおり、本作では複数の事件が絡み合っている。その事件を物語として処理するには、当時の私では力が及ばず……。新潮社から刊行された「奇譚蒐集録」シリーズを通じて、スパルタ担当者に鍛えてもらったおかげで、今般ようやく書き上げることができました。

――神隠し伝説の始まりは、慶長四年……関ヶ原の戦いが起きる前年にまで遡ります。現代だけでなく、時を超えて事件が絡み合うので、読んでいるほうは息つく暇もなく一気読みでしたが、あまりに緻密な構成に、どう練り上げたのだろうと感嘆してしまいました。

清水:ありがとうございます。私のデビュー作である『神遊び』がしょっちゅう『神隠し』と間違えられるので、だったら一度がっつり神隠しをテーマに据えた小説を書いてやろう! と思ったのも、起点といえば起点です(笑)。調べてみると、おもしろいんですよ。インタビュー第1弾でご紹介した小松和彦『神隠しと日本人』のほかに、平田篤胤『天狗にさらわれた少年 抄訳仙境異聞』なんかもおすすめですが、実際に神隠しに遭った・天狗にさらわれたという子供たちの体験談をみると、なんとなく共通項が見受けられます。

――作中にも〈天狗が攫うのは子ども、鬼が攫うのは女性〉と書かれていましたね。

清水:そうした記述に、編者の偏見が入っていないとは言い切れないのですが、事実の集合体から何かしらの裏といいますか、読み取れる別の事実みたいなものを探るのがとてもおもしろいんですよね。もちろん本当のことが書かれているとは限りませんし、「風土記」のように都合良く書かれたものも多いのですけれど、資料の行間を読みといていく過程で得た発見が学問となることもあれば、イマジネーションを働かせて小説に育てていくこともできる。『薬喰』も、そんな積みかさねででき上がっています。

――神隠しをはじめとする事件を解決する探偵役として、籠目と祝はどのように生まれたのでしょう?

清水:実をいうと、最初、籠目は女性だったんですよ。ケンカップルみたいな感じで書こうと思っていたら、担当編集者さんに男性二人のバディものにしたほうがおもしろいのでは、と提案された。確かに、へたに恋愛を絡めるよりも、事件に注力できるかなと思ったので、変更しました。

――その名残で、二人は喧嘩ばかりしているんですね(笑)。過去に秘めたものをもつ籠目も魅力的ですが、やはり気になるのは“タヌキ先生”とあだ名される祝です。それこそタヌキすら食べようとする祝は、ジビエで町おこしを狙う二桃地区でも有名人。彼がガイドしてくれる食のうんちくも、興味深かったです。

清水:タイトルが『薬喰』というくらいですから、食に詳しい人に登場してもらわなきゃ困るなあと思いまして。ただ食い意地が張っているだけだと弱いので、人肉と恐竜以外の肉はすべて食べたということにさせてもらいました。コロナ禍で執筆していたせいで、どこにも食べに行けない鬱憤を、作中の描写で晴らしていたような気がします。

――どうりで、ジビエ祭りの描写など、おいしそうなわけです……。彼の知識には、物語と離れてはっとさせられることも多かったです。たとえば〈料理と食べ物に関する知識を覚えることは、自分の身体を長く保たせる免許を取得することと同義だと思ったほうがいいぞ〉とか。

清水:それはまさに私の実体験からきた言葉です。数年前にダイエットして、1年間で14キロやせたんですよ。といっても、無茶をしたわけではないですよ。もともと貧血気味なので、体調を崩すようなやり方をしてはならぬと、独学で栄養学をかじりながら、いかに健康的に体重を落とすか、ということに尽力したんです。最終的には人間ドックで先生からも検査項目すべて改善で貧血もないとお墨付きをもらって。そのとき、やっぱり自分の身体を長く保たせるためには、自分でメンテしないとだめなんだ、と痛感したところから生まれたセリフなんですが……ここまでなら素晴らしい話なんですけども、実際は見事にリバウンドしたあげく、コロナ禍でさらに10キロ太り、トータル20キロ増という状態。現時点では失敗談なんですよね。まあ偉そうに言っている祝も失敗しているんですけどね(笑)。

――知識だけ蓄えればいいというものではない……と祝も言っていましたね(笑)。どんな食べ物も最初から毒と見分けられるはずがなく、最初の挑戦者はいたはずで、そういう人たちを〝神農の末裔〟と呼んでいるのだ、という彼のセリフもカッコよかったです。

清水:カッコいいかな、と思ってつけた造語です(笑)。でも本当に、すごいことだなと前々から思っていたんですよ。自分の身体を実験台にしているわけじゃないですか。ウニとかナマコとかよく食べたなあ、って思いません? 毒があるとわかってなお未だにフグを食べようとするのもすごいなと。おかげで我々は安全に美食という恩恵に与れるわけですから(笑)。ちなみにウニもナマコもフグも大好物です(笑)。

――「薬喰」というのはそもそも滋養や保温のために鹿やイノシシなどの肉を食べることをいいますが、肉食禁止令が出されていた時代、健康のためにあえて薬として食べた、というのもよく考えたらすごいことですよね。食事だけでなく、物事を解釈によって変化させていくことのおもしろさも、本作では描かれていたような気がします。

清水:単に、私自身があまのじゃくなんですよ。言われたとおりに物事を受け取るのも苦手だし、一つの局面から何かを判断してしまうことにも、抵抗がある。今もいろいろと揺れる世情ではありますが、なるべくニュースも鵜呑みにしないようには気を付けていますね。その情報が発信される裏に、どんな意図が隠されているのだろうか、というのは常に考えるようにしています。

――それが、資料の行間を読むということにもつながっていくんですね。

清水:事実を淡々と書いている資料だとしても、人の手が介在する以上、そこに感情が仄見えることもあれば、為政者や何かを恐れて敢えて「書かない」、あるいは「障りがないように表現した」部分もあると思います。そういう部分は読んでいてどうしても違和感があるというか。もちろん「恐れ」や「憚り」に限ったことではないですが、敢えて明言されていない、文字(口)に出せない「何か」を読み取れる瞬間というのがあって、それが作品のイマジネーションや物語の根幹に結び付いていくことが多い。読み取れた! と思っているのが、結果として自分の読み違いなんだとしても(笑)、私が書いているのは論文ではなく小説なので。 
 そのあまのじゃくな解釈が作品のおもしろさにつながればそれでいいかなと(笑)。

――ちなみに今作、シリーズ化されるご予定は?

清水:籠目はともかく、祝がずいぶんと興味深いキャラクターになってくれたので、できることなら……という気持ちはありますね。祝の生い立ちもなかなか複雑なので、そのあたりもいずれ出せたらいいなあ、とも。本作では土地のものを身体にとりいれるということについて描きましたが、身土不二……人と土地とは密接に結びついているということは、なにも食に限ったことではない。あまりに当たり前すぎて、私たちが気づいていない、文字にも残されていない文化をもうすこし深掘りしていけたらいいな、とも思っています。

■作品紹介・あらすじ

恩田陸先生絶賛の「奇譚蒐集録」シリーズで注目を集める著者が角川文庫初登場!...
恩田陸先生絶賛の「奇譚蒐集録」シリーズで注目を集める著者が角川文庫初登場!…

薬喰
著者 清水 朔
定価: 858円(本体780円+税)
発売日:2022年07月21日

驚異的な舌を持つ名探偵×駆け出しのイケメン作家のバディが事件の謎を追う
ジビエで町おこしを狙うU県北篠市二桃地区には伝説がある。二桃山の安永桃神社から上に行った子供は神隠しに会うという。伝説の神隠しを取材しに同地を訪れた作家・籠目(かごめ)周(あまね)は、近くの小学生が行方不明になっている事件を聞かされる。その山での散策の途上、包丁を振りおろし一心不乱に何かをしている男と遭遇。気圧されて後退さった先に転がっていたのは、誰かの小さな「右手」だった――。
驚異的な舌(味覚)を持つ名探偵と直感(だけ)が冴えるイケメン作家、相性最悪のコンビが現実の殺人事件と伝説の裏に隠された事件の謎を追う! 痛快民俗学ミステリー!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322203001809/

KADOKAWA カドブン
2022年08月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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