ベストセラーの続篇も期待通りの読み応え 現代性溢れる青春ミステリ

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ベストセラーの続篇も期待通りの読み応え 現代性溢れる青春ミステリ

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』は昨年、各誌の年末の海外ミステリランキングで高く評価された『自由研究には向かない殺人』(創元推理文庫)の続篇で、期待通りの読み応え。

 前作で失踪事件の真相を突き止め注目を浴びた高校生の少女ピップは、友人から兄ジェイミーが失踪したと相談を持ち掛けられる。警察はよくある家出だとして取り合ってくれず、ピップは周囲の人々にインタビューを重ねながら、それを音声配信して情報を集めていく。SNSを駆使し、友人らが撮ったジェイミーの写真の撮影時刻から彼の足取りを確認するなど、調査方法が現代的。ジェイミーの行動には不審な点が多く、その裏には予想外の真相と、とある人物の痛切な思いが隠されている。

 続篇なだけに、過去に起きた事件の余波も描かれている。本書だけ読んでも状況は把握できるが、しかし、前作も傑作なので読まなきゃもったいない。『自由研究には向かない殺人』ではピップは自由研究の題材に、町で起きた少女アンディの失踪事件を取り上げる。表向きの目的はメディア報道の考察だが、実は違う。その事件は失踪の数日後にアンディの交際相手、サルが遺体で発見され、彼が彼女を殺害し自殺したとされたが、生前のサルの人柄を知るピップはそれを信じられず、彼の無実を証明しようとしているのだ。関係者にインタビューを重ねてSNSを駆使するのは本作と同じで、真相とともに人々の偏見や、若い世代が抱く閉塞感も表出していく。

 現代性を感じさせる青春ミステリとして浮かぶのは米澤穂信『さよなら妖精』(創元推理文庫)だ。物語の舞台は一九九一~九二年だが、今の世界に通じるものがある。地方の町の少年がユーゴスラヴィアから来た少女マーヤとつかのま交流を深め、後日、彼女の故郷を突き止めようとする。当初はユーゴスラヴィアの場所も状況も知らなかった彼が、かの国の紛争を知り、心を痛め、無力感に苛まれていく。その葛藤が、今の私たちに重なるものがあるのだ。

新潮社 週刊新潮
2022年8月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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