『復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』
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病を受け入れ、諦めず、そして楽しむ
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
著者・出口治明氏の名は、読書好きなら知らぬ者はいないだろう。立命館アジア太平洋大学の学長を務める傍ら、ビジネス書・歴史書を中心に多数の著書を執筆し、その多くがベストセラーになっている。氏の本は取り上げるまでもなく売れるのだから、筆者あたりがここで改めて紹介するまでもないかと思ってきたが、本書ばかりは別だ。
精力的に活躍を続けてきた出口氏が脳卒中で倒れたのは、昨年初頭のことであった。一命はとりとめたものの、右半身不随となり、発語や意思の疎通、文章の理解も難しいという、かなり重篤な状態であった。しかし氏は、この状態から学長職への復帰を目指し、リハビリに入る。
本書『復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』は、復職に至るまでの一年あまりを描いた一冊。当然ながらリハビリは過酷なものであり、途中で機能回復を諦める患者も多いという。しかし著者は、通常の訓練に加えて、スタッフが心配して引き止めるほどの自主トレを自らに課し、徐々にかつての能力を取り戻す―というより、再構築してゆく。そしてこの春、ついに著者は目標としていた学長職への復帰を果たして見せた。
プロであるスタッフを全面的に信頼し、置かれた状況を嘆くことなく、全てに前向きに取り組む姿が印象的だ。老いと病は誰のもとにも必ずやって来るが、全てを受け入れて楽しみつつ前進を続ける、著者の姿に励まされる。