『皮膚、人間のすべてを語る (原題)THE REMARKABLE LIFE OF THE SKIN 万能の臓器と巡る10章』モンティ・ライマン著(みすず書房)

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皮膚、人間のすべてを語る

『皮膚、人間のすべてを語る』

著者
モンティ・ライマン [著]/塩﨑香織 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
自然科学/自然科学総記
ISBN
9784622090922
発売日
2022/05/11
価格
3,520円(税込)

書籍情報:openBD

『皮膚、人間のすべてを語る (原題)THE REMARKABLE LIFE OF THE SKIN 万能の臓器と巡る10章』モンティ・ライマン著(みすず書房)

[レビュアー] 辛島デイヴィッド(作家・翻訳家・早稲田大准教授)

厚さ数ミリ 奥深い世界

 「皮膚之見」や「美しさは皮一重」などの表現にも象徴されるように、皮膚は表面的なものとして軽視される傾向があるが、実はわれわれの身体を覆う最大の臓器である。

 人間の皮膚を理解することは「私たちが何者であるかを理解すること」。そう提案する著者は、医学生時代に自ら湿疹を発症して以来、世界を回りながら皮膚の様々な側面を探求してきた。

 引き出しが多く、最新の科学・医学研究はもちろん、世界各地で自ら目にしてきた症例や、哲学、美術、文学などからも幅広く例を用いて皮膚の世界を案内してくれる。

 アクネ菌はワイン好き。ハウスダストの半分は皮膚。そんな誰かと共有したくなるような面白ネタも適度に盛り込みながら読者を引き込んでいく。

 著者は冒頭で断る。「本書は、美しく健やかな肌を手に入れる方法を解説した本ではない」と。だが、皮膚とうまく付き合うためのヒントも少なくない。食生活、睡眠、日光と皮膚の関係などに関する見解は、生活習慣を適度に見直したいと思わせる説得力がある。

 本書の後半では、触覚や皮膚の社会的側面にも焦点が当てられる。著者は、スキンシップは、身体と感情の健康を保つ上で欠かせない「愛と思いやりを伝える言葉」だという。通信技術の発展やコロナ禍を受け、人とのつながりを十分保てているだろうか。Lose touchしていないだろうか。そう改めて考えさせられる。

 皮膚の素晴らしさを説く著者だが、その「危険な側面」に目を向けることも怠らない。「もっとも人目につく臓器でもある」皮膚が人を品定めし、区別・差別するのに使われてきた実態も、冷静な筆致で綴(つづ)る。また、命にかかわらないがために軽視されがちな(例えばニキビのような)皮膚疾患が、メンタルヘルスに及ぼす悪影響にも読者の注意を向け、「もっと真剣な取り組みが必要だ」とする。

 われわれの皮膚は厚いところでも数ミリしかないが、その先に広がる世界は極めて奥深い。塩崎香織訳。

読売新聞
2022年8月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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