<東北の本棚>編集人の危機感と自負

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

小さな出版社のつづけ方

『小さな出版社のつづけ方』

著者
永江 朗 [著]
出版社
猿江商會
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784908260124
発売日
2021/11/25
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>編集人の危機感と自負

[レビュアー] 河北新報

 人生の多くを働いて過ごすなら、好きなことを仕事にしたい。歌手やスポーツ選手、ベストセラー本を作る編集者など、誰もが子どもの頃に憧れた職業があるだろう。本著には本を作る夢を実現した人たちが、出版社の誕生前夜や現在の思いを語る。充実した時間と苦労を重ねる姿を丹念に追った。

 登場するのは、アフリカのデスメタルなどニッチな分野の書籍を手がける「パブリブ」(東京都)、暮らしに密接したテーマに取り組む「三輪舎」(神奈川県)など九つの小さな出版社。1人で営む社も多い。表紙デザインや組み版を外注せず内製化。職住近接で仕事のスケジュールも子育てに無理のないように組むといった具合に働き方も多様だ。出版業界は激務というイメージがあるが、多くが柔軟でストレスの少ないマネジメントを積極的に取り入れている。

 本書で唯一、東北から紹介されているのが「荒蝦夷」。仙台市を拠点に「別冊東北学」をはじめ東北にゆかりのある良書を生み出している。地元の書店や印刷会社とのつながりが深く、大手出版社にはない小回りの利く販売手法が強みの一つだ。東日本大震災で被災した当時の様子も描かれ、本紙連載「仙台発 出版こぼれ話」でおなじみの、土方正志代表が書籍を守ろうと奔走する姿に心打たれる。

 出版社という形態を取る以上、食いぶちを稼いで会社を維持しなければいけない。業界の不況や活字離れが叫ばれて久しいが、本を売り新作を出さないと会社はつぶれる。危機感と編集人としての自負。二つが影響し合うことで、個性豊かな作品が誕生するのかも知れない。

 著者は洋書店勤務や雑誌編集の経験があるフリーライター。各社へのインタビューから、本を作る人々への敬意と愛情が伝わってくる。
(長)

   ◇
 猿江商会03(6659)4946=1870円。

河北新報
2022年8月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク