『アフガニスタン・ペーパーズ (原題)The Afghanistan Papers 隠蔽された真実、欺かれた勝利』クレイグ・ウィットロック著(岩波書店)

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

アフガニスタン・ペーパーズ

『アフガニスタン・ペーパーズ』

著者
クレイグ・ウィットロック [著]/河野 純治 [訳]
出版社
岩波書店
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784000615433
発売日
2022/06/28
価格
3,960円(税込)

書籍情報:openBD

『アフガニスタン・ペーパーズ (原題)The Afghanistan Papers 隠蔽された真実、欺かれた勝利』クレイグ・ウィットロック著(岩波書店)

[レビュアー] 森本あんり(神学者・東京女子大学長)

米、出口なき派兵の失敗

 アメリカの壮大な失敗の記録である。だが同時に、国家の失敗をここまで公に議論できることに、なお残る民主社会の希望も感じられる。

 九・一一のテロ攻撃を受けたアメリカは、報復と称してアフガニスタンへ侵攻し、あっけなくターリバーン政権を崩壊させる。しかし、ターリバーンはアル=カーイダを匿(かくま)っただけで本来は別組織だし、一般のアフガン人とターリバーンは区別がつかない。アメリカは、誰を相手にしているかもわからずに、もぬけの殻となった国で二〇年を戦い続け、出口戦略もないままに七七万人を派兵して一兆ドルを費やした。空白を埋めるはずの新国家建設は、文化の無理解と傲慢(ごうまん)が災いして次々と暗礁に乗り上げる。

 しかも、ブッシュ・オバマ・トランプという三人の大統領は、「勝てない戦争」と知りながら、大本営発表よろしくバラ色の見通しを語って国民を騙(だま)し続け、撤退を約束しつつ増派を重ねた。その詳細な記録の存在を嗅(か)ぎつけたのが、本書のワシントン・ポスト記者である。

 題名や序文からして一九七一年の「ペンタゴン・ペーパーズ」が意識されていることは明らかだが、両者の違いも大きい。五十年前の事件では、政府内の機密文書が持ち出され、新聞社は記事差し止めを求める政府に訴えられたが、今回は機密指定のない公開文書が発端で、新聞社は背後に山積するインタビューやメモの開示を求めて連邦政府を訴えた側である。半世紀の間に進んだ情報公開法の成果といってよい。

 ふりかえれば、わが国では政内文書の隠蔽(いんぺい)や破棄が平然と行われ、国会もそれを追及できずにいる現状である。実は、本書の長い謝辞にも連邦議会の議員は誰一人出てこない。だとしたら、国民の知る権利を支えるのは誰か。「記者は上司が守ってくれないかぎり、困難な記事に取り組むことはできない」という一言を、ジャーナリズム界の責任ある立場の方々に、しかと受け止めていただきたい。河野純治訳。

読売新聞
2022年8月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加