『「捨てる」思考法』
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トレードオフで結果を出す。出口治明が解く「捨てる」思考法・実践のコツ
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
日本生命、ライフネット生命と歩き、生命保険業界から教育業界に転身しましたが、振り返れば、僕の人生は「捨てる」と「得る」の連続でした。
いわば、人生は毎日がトレードオフ。人間の器は小さくても、トレードオフによって何倍にも活かすことができます。その第一歩が「捨てる」にあることは、間違いありません。(「はじめに」より)
こう語るのは、立命館アジア太平洋大学(APU)学長である『「捨てる」思考法 結果を出す81の教え』(出口治明 著、毎日新聞出版)の著者。
ちなみに、「捨てる」というテーマで本を出版する話が持ち上がったのは2019年秋のことだったそう。その後、新型コロナウイルスの感染が拡大するなかで、「この社会にとってもっとも大切なことはなにか」を考えたのだといいます。
人の命か経済か、限られた資源(時間・お金・労働力)を有効に活用するには、短期的に二者択一を迫られる場面もありました。
頭では分かっていても、実際にはあれもこれもと手を出して、迷い悩んだ末に決断のタイミングを逃してしまい、結局、後手に回るという苦い経験をした人も少なくないのではないでしょうか。(「はじめに」より)
未来のために、捨てるべきものを潔く捨てる。その価値を認めれば、それは大きなチャンスにつながると著者は述べています。そこで本書では「捨てる」ことの重要性を、具体的な例を示しつつ解き明かしているわけです。
きょうは第2章「余計なものを手放す習慣を身につける」のなかから、いくつかの要点を抜き出してみたいと思います。
手帳を捨ててスケジュール管理を簡略化する
著者は若いころから不合理なことが苦手で、重たいものや役に立たないものは持ちたくない性分だったのだそうです。そのため、社会人になってから身につけるようになったものを、経験に応じて段階的に捨てるようになったのだとか。
自身にとってそれはごく自然なことだったものの、思えばそれはトレードオフの実践だったと振り返っています。なぜなら、“捨てる効用”で仕事の効率が上がったから。
たとえば手帳を捨てたのは、いまから40年以上前。管理職になったときだったそうです。以後は、会社のデスクの卓上カレンダーだけで予定を管理するようになったというのです。
出先でなにかあれば会社に電話をかけ、部下に予定を確認したり、書き込んでもらったりすればよいのだと。
手帳を捨てると、ポケットは軽くなり、スケジュールを二重に管理する手間が省けるようになりました。以来40年間、手帳は持ち歩いていませんが、困ることはありません。
手帳がないと、なんとか記憶しようとしますから、記憶力のトレーニングにもなります。(73ページより)
備忘のためにどうしてもメモしたいと思ったときは、食事中であればお品書きの隙間や紙ナプキンに書いたり、オフィスなら裏紙に書いたりすればこと足りるといいます。
なるほど、究極の「捨てる技術」であるといえそうです。(72ページより)
捨てるものを決める「マイルール」をつくる
ものを捨てるときのキーポイントは、「時間」と「分量」。たとえば今週中に片づけると決めたら、必ず守って時間内に実行する。そして、段ボール3箱分を捨てると決めたら、箱がいっぱいになるまで黙々と詰め込むのが著者の「マイルール」。
ただ漫然と捨てようとしても、「これは〜の思い出だから」「また使うかもしれないから」などと考え始めてしまうことも少なくありません。そのため、なかなか作業が進まないわけです。
ところが、まず段ボール何箱分と分量を決めてしまえば、そこに意識を集中することができます。
僕はそれをマイルールと呼んでいますが、「いつまでに」(時間)と「どのくらい」(分量)をとにかく決めてしまうことが大事なのです。(84ページより)
なお著者は職場の壁に「明日の夕方までに机の上を片づけます」と書いた紙を貼り出したことがあるのだといいます。そうすれば通りがかった同僚が「へえ、片づけるんだ」とからかっていくので、想定どおりとはいえかなり追い込まれたそう。
仕組みづくりが得意なタイプは、総じて仕事のできる人です。プライベートなイベントを企画してカレンダーを上手に使い、予定した行動に強制力を持たせています。(85ページより)
これもまた、頭の片隅にとどめておき、そして応用したい考え方だといえます。(84ページより)
スピード重視で的確に「見切る」と、仕事の評価がアップする
時間をかければいい仕事ができると考える上司がいますが、それは誤った定説です。仕事はある時点で捨てることも大切です。つまり、「見切る」ということですが、ビジネスに無駄な時間を費やすことは、時として命取りになります。
見切る力を養うことは、仕事を合理的に進めるための重要なポイント。会議でも、時間をかければいいとばかりに延々と議論したものの、結局は振り出しに戻ったなどという経験が読者の皆さんにもあるのではないでしょうか。(99ページより)
もちろん芸術作品であれば、10年や20年の年月をかけて素晴らしい作品を完成させるということも珍しくはないでしょう。しかし、ビジネスの現場においての時間は資源です。つまり、時間をかければいい結果が出せるという通説は「根拠のない幻想」にすぎないということ。
もしスピードを優先すれば、おのずとキリのいいところで仕事を見切ることになります。しかも早く提出すればそれだけ、上司には軌道修正する時間的余裕も生まれます。そういう意味でも、仕事には須くスピード重視で臨むべきだというのです。(99ページより)
著者は本書を、おもに20代後半から40代のビジネスパーソンに読んでほしいのだそうです。ぜひともここから「捨てる」ことの価値を学び、自身のビジネス、ひいては生き方そのものに結びつけたいものです。
Source: 毎日新聞出版