<東北の本棚>郷土芸能で地域おこし

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まつりの立役者 加藤俊夫遺文集

『まつりの立役者 加藤俊夫遺文集』

著者
加藤俊夫 [著]/花部英雄 [著]/加藤ゆりいか [著]
出版社
みちのく民芸企画
ISBN
9784991247101
発売日
2022/03/19
価格
2,970円(税込)

<東北の本棚>郷土芸能で地域おこし

[レビュアー] 河北新報

 今月6、7の両日、「北上・みちのく芸能まつり」が北上市であり、岩手県内外の85団体が民俗芸能を披露した。60年の歴史を有する人気行事も新型コロナウイルスの影響を受け、開催されたのは3年ぶりだった。

 著者は市観光係長だった1969年、第8回まつりの舞台演出を担い、従来1万人ほどの観客を10万人に増やした。存続さえ危ぶまれたイベントは一転、県内屈指の存在に成長する。

 盛岡、仙台の藩境に位置する北上市とその周辺は東北でも民俗芸能の数が格段に多い。芸能の宝庫を存分に楽しんでもらう工夫を凝らしたのが奏功したのだろう。後継者が現れるなど、保存や伝承にも貢献した。プロデューサーの神髄だ。きっかけは、64年に開館した北上市民会館での自主事業にさかのぼる。会館の管理係長として民謡公演を「ドル箱企画」に仕立てるなど、舞台演出の技術を養い経験を積んだ。

 41歳となった72年、市役所を後にし民間人としての歩みを始める。79年創刊のタウン情報誌「街・きたかみ」を引っ張り、同誌を母体に87年誕生した、歴史遺産や民俗芸能を探る季刊誌「ダ・ダ・スコ」の責任編集者として指揮を執る。80年設立の出版社「みちのく民芸企画」を拠点に、民俗芸能の調査研究にも尽力した。

 本書は、2005年に73歳で死去した著者の遺稿集。長女の加藤ゆりいかさんと花部英雄さん夫妻が編集した。まちおこしの仕掛け人という意味では、著者は戦後の第1世代に当たる。試行錯誤しながら道を切り開く軌跡は、まるで手本を持たない創業者のようだ。一方、日本の経済成長が地方にも波及し、市民が文化を楽しむ環境や条件が整ったのは追い風だった。

 「立役者(たてやくしゃ)」とは、芝居の一座で中心となる俳優のこと。編者は、酸いも甘いも含めた著者の素顔に触れる。「時代の子」ゆえの陰影は人としての魅力に奥行きをもたらす。(志)
   ◇
 みちのく民芸企画0197(62)7222=2970円。

河北新報
2022年8月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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