ミスか故意か? 医療過誤をめぐる事件。弁護士経験を活かし小説を執筆する織守きょうやに聞く

インタビュー

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301号室の聖者

『301号室の聖者』

著者
織守きょうや [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575525939
発売日
2022/08/04
価格
748円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

弁護士だからこそ書けた鮮やかなリーガルミステリー『木村&高塚弁護士』シリーズ著者・織守きょうやインタビュー〈前編〉

[文] 双葉社

2021年に刊行した『花束は毒』が未来屋小説大賞を受賞し、今ミステリー界で注目を集める織守きょうやさん。デビューから10周年を迎える節目の今年、リーガルミステリー「木村&高塚弁護士」シリーズを3か月連続刊行する。

7月には『黒野葉月は鳥籠で眠らない』が新装版として復刊し、8月には『301号室の聖者』が文庫化。9月15日には新作『悲鳴だけ聞こえない』が単行本で発売となる。新米弁護士の木村龍一が敏腕の先輩・高塚智明と共に難儀な依頼を解決する本シリーズに込めた思いを織守きょうやさんに聞いた。

 ***

司法修習生時代に経験した裁判がきっかけで誕生した短編

──織守さんは今年で作家デビュー10年を迎えました。記念すべき年に続々と話題作を刊行していますね。6月には『学園の魔王様と村人Aの事件簿』(KADOKAWA)を、7月からは3か月連続で「木村&高塚弁護士」シリーズの刊行となりました。こちらのシリーズの着想のきっかけはなんだったのでしょうか?

織守きょうや(以下=織守):デビュー作『霊感検定』のあとに、初めて読み切りの短篇を書く機会があり、まずは表題作である「黒野葉月は鳥籠で眠らない」の黒野葉月のキャラクターありきで物語を考えました。年齢差があって普通だったら相手にしてもらえないような男性を好きになって、でも全然諦めない、くじけない女の子を書きたいと思ったところから始まったんです。

事件に関しては、私が司法修習生だったときに傍聴した児童福祉法違反の裁判が印象に残っていて、その2つをリンクさせて短篇にしました。家庭教師の男性と未成年の女子生徒という関係性の場合、同意のうえであっても、男性は女子生徒に性的な行為をさせてはならないという法律があります。恋愛関係にあったり、生徒のほうが押して押して押しまくって行為に及んだり、というような場合でも罪に問われるのは男性なんですよね。じゃあ、この場合に女子生徒は、どうやってこの恋愛を成就させたらいいのだろうと考えてミステリーにしました。

──女子生徒が法に則って最後に見せる切り札は見事でした。これは弁護士としての経験がある織守さんだから書けたどんでん返しではないでしょうか。本シリーズは、弁護士コンビの活躍を描いていますが、毎話なんらかの法律を扱います。いつから弁護士ものを書こうと思っていたのですか?

織守:弁護士になってからの投稿生活中はまったく思っていませんでした。難しいし、そんな簡単にネタも浮かばない。でも、「黒野葉月は鳥籠で眠らない」が書けたので、いけそうだなって感触を掴んだ。とはいえ、法律を使って「その手があったか!」みたいなステリーはなかなか思いつかないのですが、結果的に4篇書き切ることができて1冊にまとまりました。

おかげさまで年末のミステリーランキングにも入れてもらい、好評をいただきました。そして、いろんな出版社から「弁護士ものを是非書いてください!」と依頼が来たのですが、なかなか難しかった。でも、それから何年か経って著作も増えてきて、また書きたいなと思っていたのが9月刊行の新作『悲鳴だけ聞こえない』に繋がりました。

──『黒野葉月は鳥籠で眠らない』のテーマは幅広いですよね。木村が司法修習生同期の友人が起こした殺人事件の弁護人になったり、はじめての離婚調停を経験したり、特殊な遺産相続を担当したり、依頼人の執念や人間の残酷な一面が描かれて、読み応えは抜群でした。

織守:離婚調停をテーマにした『三橋春人は花束を捨てない』は本格ミステリ作家クラブ編纂の『ベスト本格ミステリ2015』にも収録してもらいました。このあたりから「私、もしかしてミステリー作家と名乗っていいのかも?」って思い始めました(笑)。それで、一度は「私なんて本格ミステリ作家じゃないので……!」と入会をお断りした本格ミステリ作家クラブにも、その後入会させていただいたんです。


『301号室の聖者』著者 織守きょうや (撮影:鈴木慶子)

弁護士経験がなければ書けなかったシリーズ

──第2弾の『301号室の聖者』は木村が初めて医療過誤の損害賠償訴訟を担当し、次々と病室で不審死が起こる難事件に挑みます。物語は後半になると、遺産相続における「相続人が死ぬ順番」が重要な要素となり、リーガルミステリーとして加速していきます。このあたりは弁護士としの経験があってこそではないでしょうか?

織守:弁護士になっていなかったら書けなかったと思います。遺産相続や破産など、法律で「ルール」を決めないと社会はうまくまわらなかったり、不公平になったりすることがたくさんあります。その「ルール」がミステリーと相性がよい。

私が書いた作品でいえば、吸血鬼ミステリーの『花村遠野の恋と故意』のシリーズでは「吸血鬼は特定の行動が出来ない」とか、『ただし、無音に限り』では「霊能力はあるけど見えるモノは限られる」とか、そういった特殊設定を設けることはミステリーにおいて大事なツールですよね。

法律もそうなんです。国が違えばルールも違うし、「こういう手法を使えば抜け道がある」とか、ある種の特殊設定だと思う。だからリーガルミステリーも発想と構造は特殊設定と同じだったんです。

──『悲鳴だけ聞こえない』では、パワハラ、特殊詐欺、破産をテーマにするなど、これまでの2作以上に現代的なテーマを扱っていますが、こういう社会問題や事件に普段からアンテナを張っているのですか?

織守:普段あまり意識はしていないんですが、弁護士だったときのことを必死に思い出しています。遺産相続は書いたな、離婚も書いたな、でも破産は書いてないなとか。なんとか経験した案件を思いだして面白く書けそうなものを選んで作品の構想を練っています。

──ということは、弁護士時代に経験したことが織守作品にわりと反映されているんですか?

織守:トリック部分以外はかなり反映されていますね。リアルです。ただ、「木村&高塚弁護士」シリーズで起こる事件は原則として現実では起きたものではないですし、起きてもおかしくはないけどそうそう起きないだろうラインです。そこはファンタジーと同じように考えています。

たとえば表題作の「悲鳴だけ聞こえない」は、企業からの依頼でパワハラの調査をして、加害者は誰か、被害者は誰か、名乗ることのできない両者を調査していくのですが、弁護士にはこういう業務がある、とかこういう取り組みをしている会社がある、というのはリアルです。でも、謎や、実際何が起きていたのか、という真相はフィクションです。「依頼人の利益」という話では、破産申立代理人や破産管財人の業務自体は実際の私の経験をベースに書いていますし、ラストに高塚がやったことも私が実務の中で思いついたことですが、さすがに(倫理的に)どうかな……と思って実行はしていません。「理論上はあり得るけど、現実にはやらない/そうそう起きない」ということをストーリーに盛り込んでいます。

──最後に、これから「木村&高塚」シリーズを読む方へメッセージをお願いします!

織守:全作、法律が事件解決にがっつり絡むタイプのリーガルミステリーですが、難しい内容ではないので、気負わず読んでみていただけたら嬉しいです。タイプの違う二人の弁護士のバディものでもあります。

リーガルミステリーに興味がある方、バディものが好きな方、ラストで引っくり返る話が好きな方にはきっと楽しんでいただけると思います。よろしくお願いします!

COLORFUL
2022年8月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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