<書評>『この国の戦争 太平洋戦争をどう読むか』奥泉光、加藤陽子 著

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この国の戦争

『この国の戦争』

著者
奥泉 光 [著]/加藤 陽子 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784309631509
発売日
2022/06/21
価格
968円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『この国の戦争 太平洋戦争をどう読むか』奥泉光、加藤陽子 著

[レビュアー] 成田龍一(日本女子大教授)

◆「物語」批判を手がかりに

 戦争を描く小説家(奥泉光)と、戦争を研究する歴史家(加藤陽子)による戦争をめぐっての対話である。まずは、第一部でアジア・太平洋戦争を考える前提−問題意識と近代日本の「国民統合の方式」として「軍隊」と「憲法」に焦点があてられる。第二部では、戦争に至る過程が細かに追われ、最後に戦争にかかわる手記や日記、文学作品が読み解かれる。第一部・第二部では国家の政策や為政者の議論が扱われるのに対し、第三部では、手記や日記、文学作品を扱い、戦争にまきこまれた側の声が読み解かれる。

 ともに親が戦争体験を有する世代で、戦争に対する感覚を共有し、軍部の台頭−暴走を批判する歴史観を持つ。「軍人勅諭」と「教育勅語」が並べて読み解かれ、公式の解釈が時代のなかで変遷したことが指摘される。日中戦争が第一次大戦後の国際関係−不戦条約体制との関連で解かれ、日米開戦をめぐる現在の新解釈が披露されるなど、対話によって戦争をめぐる通念を揺り動かしていく。

 このとき、導線となるのは「物語」−出来事を説明する語りの形式、それもその批判的検討である。奥泉は戦争にかかわる「物語」の役割を重視し、加藤はそれを「認識の枠」を決めるものと受け止めつつ、「物語」批判を手がかりに戦争に分け入る。単純化され、単一の声で染め上げたストーリーとなってしまっているアジア・太平洋戦争をめぐっての「物語」。しかし、それなしでは戦争に接近できないとして、これまで語られてきた「物語」をさまざまに点検し、批評するのである。物語批判を展開する小説家と、資料批判−資料が語る「物語」の批判的解釈を作法とする歴史家の接点が、ここにある。第三部で田中小実昌の作品が、「物語」を壊す「物語」として読み解かれるのはそうしたことに通じている。

 ただ、必ずしも丁々発止のやりとりとはならない。文学・歴史学は、ともにことばによる表現のため、「物語」はその作法の根幹にかかわるためであろう。「物語」批判の困難さがここにある。

(河出新書・968円)

奥泉 1956年生まれ。作家。『神器』『東京自叙伝』『雪の階(きざはし)』など。

加藤 1960年生まれ。東京大大学院教授・日本近現代史。『戦争の日本近現代史』など。

◆もう1冊

田中小実昌著『ポロポロ』(河出文庫)

中日新聞 東京新聞
2022年8月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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