『愚か者同盟』
- 著者
- ジョン・ケネディ・トゥール [著]/木原善彦 [訳]
- 出版社
- 国書刊行会
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784336073648
- 発売日
- 2022/07/28
- 価格
- 4,180円(税込)
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60年代アメリカのテイスト満載のトラブルメーカー小説!
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)
肥った大きな体と、常にかぶっている緑のハンティング帽。大学院まで出たのに働きもせず、レポート用紙に中世思想かぶれの戯言を書き連ねる無為の日々。幽門の調子が悪いくせに暴飲暴食し、いつもゲップばかりしている。低俗だと罵倒するためだけにテレビを見て、毎晩のように通っている映画館では、上映中に大声で文句を言ったりするので厄介者扱いをされている。そんな30歳の独身男が、ジョン・ケネディ・トゥール『愚か者同盟』の主人公イグネイシャス・J・ライリーだ。
迷惑をかけられるのが母親だけのうちはよかったものの、その母親が飲酒運転で物損事故を起こし、賠償金が発生。弁済のために“大きな問題児”が働きに出るようになって以降のスラップスティックな展開が失笑と哄笑を生む、物語の舞台になっている1960年代アメリカのテイスト満載のコミックノベルなのだ。
リーヴィ・パンツ社で仕事に就くも、ファイルを整理ではなく廃棄してしまった上に、工場で働く労働者を煽って暴動を起こしクビに。街頭販売会社でホットドッグの屋台を任されれば、売るのではなくもっぱら自分で食べてしまう。歩く迷惑といっても過言ではないこの男が行く先々で関わりを持つ人々も、負けず劣らずの個性派揃いだ。
イグネイシャスのプラトニックな元恋人マーナ。上司からの命令により風変わりな扮装で捜査をさせられているマンクーソ巡査。リーヴィ・パンツ社に50年以上いながら、働いてはいない高齢のトリクシー女史。「やば!」が口癖の黒人青年ジョーンズ。裕福なパーティ好きの同性愛者ドリアン・グリーン。などなど、大勢のキャラクターがイグネイシャスの変人ぶりにさらなる奇矯さを添えんと活躍する物語なのである。
昨今の時々息が詰まりそうになる社会状況に風穴を開けてくれる、コンプライアンス無視のトラブルメーカー小説。わたしは好きです。