『新しい声を聞くぼくたち』河野真太郎著(講談社)

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新しい声を聞くぼくたち

『新しい声を聞くぼくたち』

著者
河野 真太郎 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784065277423
発売日
2022/05/26
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

『新しい声を聞くぼくたち』河野真太郎著(講談社)

[レビュアー] 柴崎友香(作家)

性差解消「男性性」の行方

 ジェンダーの格差を訴える声の一方でもう十分に誰でも活躍できる社会じゃないのという人もいて、なかなか噛(か)み合わない。本書はそんな噛み合わなさや様々に複雑な状況を解きほぐし、今私達(たち)が生きる社会を、人気のエンターテインメント作品を読み解きながらより深く考える。

 『クレイマー、クレイマー』などの名作映画から、宮崎駿作品、現在も連載中の人気漫画まで幅広く取り上げる。たとえば「イクメン」に象徴される「新しい男性性」や不機嫌な男性主人公が反省する物語が、他のマイノリティや階級、障害を抑圧や利用したり、優位な男性の支配的な立場を維持したりしている場合があるのではないか。性差による不平等を解消しようとするフェミニズムや多様な生き方を求める運動が、新自由主義によって能力や努力で経済力を得ることが重視され、そうでないものは自己責任とされる中で、稼げるかどうかで新たな線引きがされ、幾重にもねじれが生まれてしまう現代の社会の構造が明らかにされていく。

 「ポストフェミニズム」「ポストフォーディズム」などの概念が具体的な場面を用いて歴史の流れと共にわかりやすく解説される。私自身、「いい作品だけどなにか釈然としない」と引っかかっていたことが社会の問題とどうつながるか、多くの示唆を受けた。著者はマジョリティ男性である立場を自覚しつつ、二項対立に陥らず現状を乗り越えるために慎重に議論を重ね、境界を揺るがす可能性に注目する。肯定にも否定にも傾きそうな作品について見る側がその曖昧さを手放してはならない、との言葉が印象に残る。「新しい男性性」を実現したかに見えて何かを排除してしまった作品に対して「有意義な失敗」とも表現する。フィクションと現実が互いに反映、影響しあって見えてくる複雑さをどう見つめ、可能性を探るか。結論の部分には疑問や聞いてみたいことが多々あり、現在進行形で変化する社会で、続きの論を読みたい。

読売新聞
2022年9月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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